第1話「死の霧」  
THE MIST  

 

     ○市内  (真夜中)

   都市の町並みが、流れるように写される。
   時は12月。こごえる空気に、小雪が静かに舞っている。
アナウンサーの声皆さん!いよいよ、ミレニアムを迎えようとしています!
         世紀の瞬間まで、あと3分です!

   人々が広場に集まり、中央にあるアナログの大時計を眺めている。
   時計の短針は、じょじょに「12」へと近づいてゆく。
   そして、ついに、2000年の到来!大時計が、鐘を打ちだす。
   息を呑んでいた観衆たちが、ワーッと歓声をあげる。

     ○ひさお邸  (同)

   場違いなほど、豪勢な洋館。

   妖艶な女主人・ひさおが、ベランダに立ち、
   大時計の鐘を聞きながら、町の方を眺めている。
ひさお(ほくそえみ)コンピュータの誤作動ですって。バカな。何も起きはしなかった。
          そうよ!私たちが勝ったのよ!

   ひさおは、サッと振り返り、部屋の方へ目を向ける。
ひさお影子、いらっしゃい!一緒に新時代を祝いましょう!

   しかし、部屋の方に人の姿はない。
   ひさおの顔色が曇る。
   老いた執事が現われ、ひさおのそばへ近づく。
執事(申し訳なさそうに)お嬢さまは一人になりたいそうです。いつもの事ですが
   ひさおは、きつい表情になる。


     ○路地裏  (同)

   二人の酔っ払いが、肩を組んで、ヨロヨロ歩いている。
酔っ払いAてやんでー!何が2000年だ!何も変わらないじゃねえか!
酔っ払いBそーだ!そーだ!景気でも回復してみやがれー!

   その時、二人のそばのポリのゴミバケツが、ガサガサと音を立てる。
   二人は、ギョッとして、そちらへ目を向ける。
   そこでは、人間大のゴキブリと言う姿の、異形の者がいる。
ゴキブリ男キキキ。ついに来たぞ。これからは、我々の時代だ
   頭上からは、人間大の巨大バエと言った容姿の怪物も降りてくる。
ハエ男ブブブブ!ようやく、我らが明るい太陽を拝める日が訪れたのだ!

   酔っ払いたちの悲鳴が、あたりに響き渡る。

   タイトル「第1話 死の霧」


     ○ひさお邸・玄関  (朝)

   春。庭の花々が、眩しい日光に照らされている。

   屋敷の入り口から、制服姿の女学生・影子がバッと飛び出してくる。
   険しい表情で、門をくぐると、さっと路地を駆け去ってしまう。
   そばに止まっていた黒の高級車の運転席には、執事が乗っていたが、
   彼は声を掛け損ねてしまう。

   遅れて、ハデに着飾ったひさおも入り口から出て来るが、
   彼女は高級車のそばへと歩み寄る。
執事(ひさおへ)お、奥さま。申し訳ございません。
    呼び止めるつもりではございましたが、
      
あまりにも早く駆け去ってしまったもので・・・
ひさおそう。仕方ないわね。学校まで、送ってあげたのに

   ひさおは、車内へと乗り込む。
執事奥さま。今日の予定ですが、
    午前は花巻コンツェルンの株主総会への特別出席、
    午後には、内閣の代表者を屋敷へ迎える事となっております。
      
それから・・・
ひさお他にも、何か?
執事影子お嬢さまの事で、担任の教師が、ぜひ、お話をしたいと・・・。
    でも、そのようなお時間は作れませんよね

ひさおいえ、ちょっと待って!内閣の代表者は、多少待たせても、問題はないはずね

   その時。
タナトスそれはないんじゃないかな、マダム
   不気味な容姿の医師、ドクタータナトスが、車中をのぞき込んでいる。
ひさおタナトス!いつ、ここへ?
タナトス同志よ。忘れないで欲しいな。
    今日の日本政府との密談は、私にとっても、ひどく大切な取引なんだ。
      邪険にされたら困るよ

ひさおそれは分かってます。契約は必ず成功させます
タナトス(目を光らせ)頼むよ。政治の駆け引きは、全て、あなたに任せておるのだからね


     ○高校・校庭  (同)

   友人たちとともに、校門をくぐって、影子が入ってくる。
   影子は寡黙。

   ふと、影子の目が校庭の隅の方へ向き、きつくなる。
友人Aエコ。どうしたの?
   そこでは、数人の男子が、嫌がる女子をからかって、ふざけている。
友人Bあの男子たち、まただわ。エコ、関わらない方がいいわよ
   友人の忠告を無視して、影子は、スタスタと男子たちの元へ向かう。

影子嫌がってるじゃないの!止めなさいよ!
   男子たちはムッとして、影子の方へ目を向ける。
男子Aなんだと、おめえ!ナマイキだぞ!
影子なによ!あんたたちの方が悪いのよ!違う?なんとか言いなさいよ
男子Aこ、この野郎!
影子殴る気?やってごらんなさい、野蛮人!暴力しか振るえないの?
   影子に睨まれた男子Aがひるむ。
男子Bお、おい。こいつ、C組の三上影子だぜ。止めといた方がいいぜ
男子Aえ?あの三上か?チエッ、くそう!
   男子たちは急に態度を変え、すごすごと去っていってしまう。

   影子のそばに、友人たちが歩み寄る。
友人A大丈夫、エコ?
影子平気よ!でも・・・なぜ、皆、あんな奴らを見過ごすの!
    テッテー的に懲らしめてやるべきなのよ
友人B(優しく)駄目よ、エコ。もっと心を広く持たなくちゃ
影子(涙ぐみ)確かにそうね。・・・でも、くやしいのよ


     ○高校・応接間  (昼)

   ひさおと影子の担任教師が、テーブルを挟んで、座っている。

教師(恐縮して)まさか、来ていただけるとは思いませんでした。
    お忙しい方だとお聞きしていたもので・・・

ひさおこれでも、私は、あの子の保護者です。
    
それで、また、影子が問題でも?
教師はあ、何と言いましょうか。
    私どもとしましても、お手上げなんです。
   他生徒のする些細な悪い事も、影子さんは絶対許せないみたいなんです。
   その事で、もめ事を起こす事も多く、
    一度、保護者の方のお話も伺いたいと思いまして

ひさおあの子の両親は、3年前、亡くなったんです
教師は?
ひさお忘れもしません。真冬の家族レジャーの最中でした

     ○回想

   夜の山々の上空を飛ぶセスナ機。
   中には、影子と両親の3人家族が、楽しげに乗り込んでいる。
   突如、空に閃光が走る。光線がセスナ機を直撃する。
   燃え上がるセスナ機が落下してゆく。中では、両親が必死に影子の体を覆っている。
   ついに、セスナ機は、雪の山中へと不時着する。

ひさおの声奇跡的に、あの子だけが生き残りました。
    妹の娘なので、私がひきとってあげましたが、
    あれ以来、あの子は、自分ばかりが不幸なのではないかと
        コンプレックスを抱くようになってしまったのです


     ○研究室

   不気味な医術器具が並べられている中、タナトスと助手たち、
   そして、女子プロレスラー風の女性が立っている。

タナトス(女性へ)では、君、心の準備は良いかね
女性はい!私は、人類の希望の為、喜んで、我が身を捧げます
タナトスよろしい。では、カプセルに入りたまえ
   女性は、隅にある等身大のガラス・カプセルの中へと入ってゆく。
   蓋をしめると、内部に怪しいガスが蔓延する。
   次の瞬間、あがく女性の姿は、溶けて、消滅してしまう。
タナトス(顔をしかめ)また失敗か。やはり、かの実験に望みをつなぐしかないのか

   タナトスの元へ、助手の一人が走り寄る。
助手博士!気象班よりデータが届きました。
    計画にふさわしい町と時期は、ここに記されてあるものです

   助手から報告書を受け取ったタナトスが、ニヤリとほほえむ。


     ○ひさお邸・食堂  (夜)

   豪勢なディナーが広げられたテーブルの前に、ひさおと影子が座っている。
ひさおお食べなさい、影子。あなたの好きなものばかり用意したのよ

   不機嫌そうな影子は、ろくに手も付けず、椅子から立ち上がる。
ひさお(きつく)お待ち、影子!なぜ、そんな態度をとるの!
影子(怒鳴る)親切ぶるのは、もう止めてよ!同情なんて、もう沢山!
      お金も贅沢も、欲しくなんかない。
    パパも、会社の社長をしてたけど、ずっと慎ましくて、ずっと優しかったわ!
   影子は、走って、出ていってしまう。
   不愉快げなひさお。

   入れ違い、携帯電話を持った執事が現われる。
執事奥さま、お電話でございます
   ひさおは電話を受け取ると、執事を下がらせる。
ひさお(受話器へ)はい。間野ひさおです

     ○研究室  (同)

   タナトスが電話を掛けている。
タナトスおお、ひさおくんか。私だ、闇十字のタナトスだ。
      昼間の政府との会談はご苦労だった。感謝しておるよ

     ○ひさお邸・食堂  (同)

ひさおそれが、私の担当ですからね。で、こんな夜中に何の用?

     ○研究室  (同)

タナトス(可笑しげに)実験地が決まったよ。あんたのいるその町だ。
      実行日時は、明日の正午。よろしく頼んだよ

     ○ひさお邸・食堂  (同)

ひさお(驚き)な、何ですって?」   (FO)

       (CM)


後編へ続く