第2話「パンドラの街」  
THE MOTH & THE DOG 

 

     ○繁華街・路地裏  (夜中)

   チーマー女学生たちに羽交い締めにされた影子が、無理やり、連れてこられる。
   薄暗く、他に人影はない。

チーマーA(影子へ)あんた、どっから来たのさ!
       ここが、あたいらのシマだって分かってて、うろついてたのかよ!

   影子は、おびえた表情で、チーマーたちを見回す。
チーマーB見かけない制服だし、きっと、田舎からでも家出してきたんでしょ!
       そんな事、すぐばれちまうんだよ!

   チーマーたちは、影子の体を壁の一角に押し付け、取り囲む。
   狼狽した状態の影子は、何も喋ろうとはしない。

チーマーA(ドスをきかせて)さあ、金だしなよ。許してやるからよ。
       電車賃ぐらいなら残しといてやるからさ。それで、さっさと田舎に帰んな
チーマーC(笑って)なんか、こいつ、臭うぜ。
        この汚い服、ずっと着の身着のままなんだぜ。
           脱がしちゃわない?ひんむいちゃおうぜ

チーマーBそりゃあ、いいや
   チーマーたちが、面白がって、無抵抗の影子の服を剥ぎ取りだす。
   その事で、ようやく影子が反応を示し、わなわなと震えだす。

   おびえる目の影子の脳裏に記憶がよみがえる。
   粉となる人間。笑うタナトス。襲い掛かるアバドン!(前話からの回想)

影子(泣き叫ぶ)いやああーーっ!

   びっくりしたチーマーたちが、慌てて飛びのく。
   急激な心の動揺で、影子がドクガールに脱皮してしまったのだ。
チーマーたち(うろたえて)ば、化け物ーっ!
   チーマーたちは、恐怖に駆られて、急いで走り逃げてしまう。

   一人残されたドクガールこと影子は、ぼう然と立ち尽くしている。
   やがて、グスグス泣きながら、脱がされた自分の服を一枚ずつ拾い始める。   (FO)

   タイトル「第2話 パンドラの街」


     ○フリーメン・アジト

   どんよりと薄暗い、不気味な場所。
   ひさおとドクタータナトス及び助手たち、
   そして、彼らの目前には、
   悶え苦しみながら、床に転がされているアバドンの一人がいる。

タナトス見たまえ。あの娘の溶解液にかかったら、このザマだ。
     さすがの野民でも、新陳代謝が追い付かず、
       こいつが溶けてしまうのも時間の問題だろう

ひさお(冷ややかに)”霧”を浴びた普通の人間の症状に似ているわね
タナトスマダム。多分、あなたの推測は正しい。
     恐らくは、”霧”の副作用で、
      あの娘の体はこんな恐ろしい毒物を加工できるようになったのだ。
     前例が無いので断定はできないが、
      この毒素の正体は女性ホルモンが異常変異を起こしたものだろう

ひさお女だけの武器って事?まさに悪いムシは付きようがないわけね。
      タナトス、どうするつもり?

   タナトスは、思い出したようにバカ笑いする。
タナトスカマキリのメスは、交尾中、不用心な亭主を食べてしまうと言う。
     ははは。面白いではないか!これぞ、自然の摂理。
      あの娘をモノにできた、強いオス野民のみが子孫を残し、
        生き続ける事ができる訳だ。理に適った話だよ!

   笑い続けるタナトスに対し、ひさおは曇った表情をしている。
   ひさおが、1枚の写真を取り出し、見つめる。
   それには、影子が写っている。
ひさお(つぶやき)影子。本当に、あなただったとはね


     ○牧村邸・前庭  (夜)

   きれいなガーディニングが施されていて、それなりに広い。
   幼いアヤが、懐中電灯を照らして、うろついている。
アヤ(可愛い声で)猫ちゃん!出てらっしゃい!いじめないから!
   アヤが、遠くを照らしながら、歩き続けている。

   突然、何かにつまづき、彼女は前のめりになってしまう。
   足もとを照らしてみて、アヤがハッとした表情になる。
   そこには、影子が倒れていたのだ。

   すぐに、彼女のもとに、使用人の下子がやって来る。
下子アヤさん!駄目じゃないですか、夜中に外に出たら!
    お父さんにも、いつも言われているでしょう!
     
また、野良猫でも見つけて、追い掛けてきたんですか

   アヤは、困った表情で、足元を指さす。
   下に目を向けて、影子を見つけた下子も、ハッと驚く。


     ○牧村邸・寝室  (同)

   一人用のベッドに、影子が寝かされている。ぐっすり眠っている。
   その様子を確認した下子と、主人の牧村博士が、電燈を消して、外へ出てゆく。

     ○牧村邸・寝室の外  (同)

   牧村博士と下子が話しあっている。
牧村ただの過労で倒れていただけらしい。明日になれば目を覚ますよ
下子でも、先生。きっと、家出か何かをしてきたんですよ。警察に届けた方が・・
牧村まあ、彼女の話を聞いてからでも遅くはあるまい。
    それに、アヤの奴が、すっかり気に入っちゃったみたいだし・・

   アヤの名を出され、下子も口を閉ざす。牧村の表情も、なぜか暗い。   (FO)


     ○牧村邸・食堂  (朝)

   すでに、食卓には、牧村博士とアヤがついている。そばには、テレビもある。

   そこへ、下子に連れられて、影子もやって来る。
   影子は、警戒した態度で、むっつりと牧村親子の方を見回す。

牧村(明るく)さあ、腰掛けて。
      
君はね、私のうちの庭に倒れていたんだよ。
       それを、娘のアヤが見つけて、うちに連れてきたんだ。
    事情は知らないが、今は、私のうちのお客さんだ。
      ゆっくり、くつろいでいってくれ。
    自己紹介するよ。私は、ここの主人の牧村だ。この家で開業医をしている

   影子は、合点のいかなさそうな表情のまま、席につく。
   その横へ、アヤがすかさず自分の椅子を持ってゆく。
アヤ(楽しげに)アヤ、おねーちゃんと一緒に食べる!
   不安げな下子が、慌てて、アヤを引き離そうとするが、
   すっかり場所を陣取ってしまっている。
   下子が、牧村の方へ目をやると、好きにさせてやれ、と言った表情。

   影子は、席にはついたものの、食卓の皿には、なかなか手を出そうとしない。
牧村(明るく)遠慮しなくていいんだよ
   なおも、手を出そうとしなかった影子だが、ひょっこり、お腹が鳴ってしまう。
   アヤが、パーッとほほえむ。牧村や下子も笑顔になる。
   気まずそうな表情になった影子は、思いきって、ガツガツとご飯を食べ始める。
   ようやく、場が和む。
   他の者も、食事を始める。

牧村(さりげなく)君、名前を聞いていなかったね
影子(躊躇しながら)み・・・影子
牧村影子さんか。どんな事情があるのかは知らない。
   でも、私は君の味方だからね。もちろん、アヤや下子くんも。
     話したくなったら、話せばいいさ。
   それまで、このうちにいたらいい。私はかまわんからね

アヤ(陽気に)良かったね!おねーちゃん!
   影子は、ご飯を食べてて、聞き流している。

   そんな時、つけっぱなしだったテレビの画面がニュースになる。
   そこには、全滅した影子の町を包囲する軍隊の姿が写される。
   それを目にした影子の表情がハッときつくなる。

牧村(何気なく)五徳市関連のニュースか。全く、大変な事が起きたものだね。
     地下から未知の有害ガスが湧き出した為、
        立ち入り禁止区域に正式に指定されたらしい。
     きっと、これも本当の原因は公害だよ。
       地面に垂れ流した汚染物質が自然のガスを毒物に変えてしまったんだ。
      可哀相に、町にいた人は、皆、絶望的だって話だ

影子(つぶやき)フリーメン・・闇十字・・。
   
(いきなり)牧村さん。フリーメンって、ご存知ですか。
         黒い世界政府、あるいは、闇十字機関とか

牧村フリーメン?さあね。あれはフリーメーソンだったかな。
     そんな団体の名前なら聞いた事はあるが、それが何か?

影子(口ごもり)いえ。いいんです
牧村ただ、闇の政府なんてものは、本当にあるのかもしれないね。
    君も知っているだろう、2000年問題。
     それまでは、対策は間に合わないだろうと言われていたのに、
      実際には、何も起きはしなかった。
    あるいは、何かの力が影から働いていたのかもしれない

   牧村の話に、影子は眉をひそめる。

   また無口に戻ろうとした影子の目が、再び、テレビの画面に釘付けになる。
   話題が代わり、テレビ局のスタジオ内が写されている。
   しかし、そこでは、ひさおが司会者にインタビューを受けていたのだ。
   影子は、がく然としている。
影子(つぶやき)おばさま・・。生きていたんだわ


     ○夕日ビル  (昼)

   街の中央にそびえ立つ、高層ビル。
   その38階。並ぶドアの一つに「球異名探偵事務所」の看板が掛けられている。

     ○夕日ビル・球異名探偵事務所内  (同)

   小じんまりとした部屋の中で、
   ひさおと青年私立探偵・球異が、 向きあう形でテーブルについている。

球異(ニコニコと)間野ひさおさんみたいな、社交界の有名人に仕事を依頼されるなんて、
             おいら・・いや、私も探偵冥利です。
          で、仕事の内容は、人探し・・?

ひさお(クールに)内密に事を進めていただきたいのです。
      この子を探してもらえます?報酬は相応に用意しましょう

   ひさおが球異に差し出した写真には、影子が写っている。

ひさお名前は、影子。偽名を使っている可能性もあります。
     どこにいるのか手掛かりは皆無なのですが、
       あなたに任せて、本当によろしいかしら?
球異(胸を張り)もちろんですとも!
     こちとら、地元の生んだ名探偵、どんな事件でもお茶の子さいさいですよ!
      まあ、見ててください!

       (CM)


後編へ続く