第3話「メサイアの娘」  
HOPE WITH THE GIRL 

 

     ○夢

   暗い、ぼんやりした空間を、影子がオロオロとさまよっている。

   その目の前に、幻のように、第1話に出てきた友人たちの姿が現れる。
   彼女たちは、影子の方を見て、楽しそうに微笑んでいる。
   影子は、必死でその姿を追い掛ける。
影子ユッコ・・・ミッちゃん・・
   友人たちの姿は、影子が触れようとすると、投射映像のように消えてしまう。

   代わりに、路地裏のような場所になる。大きなゴミ用ポリバケツまである。
   腹をすかせた様子で、おなかに手をやった影子は、
   ポリバケツの中をのぞいてみようとする。
   その時。
お前は誰だ。そのゴミ箱は、我々のものだぞ
   声に驚いた影子が、振り返ってみる。

   そこには、ゴキブリやハエの野民たちがいる。
   その醜悪な姿を見て、影子はうろたえ退く。
ゴキブリ男それとも、我々と暮らしたいのか
ハエ男この闇の世界で。我々はかまわないのだぞ
ゴキブリ男人間の心を捨てろ。それだけだ
ハエ男さあ。共に生きるのだ

   おびえる影子は、顔をひきつらせて、力の限り泣き叫ぶ。
   そこで、目が覚める。

     ○牧村邸・影子の寝室  (真夜中)

   一人で寝ていた影子が、ガバッとベッドから上半身を起こす。
   汗だくである。涙もボロボロ流れている。
   全てが夢だと気付いたようだが、まだ合点のゆかぬ表情をしている。

   タイトル「第3話 メサイアの娘」


     ○フリーメン・アジト

   どんよりと薄暗い、不気味な場所。
   壁の一角がスクリーンとなり、
   前回のドクガールと野犬人の戦闘映像(ライブフィルム)が写し出されている。
   それを、ひさおやタナトスたちが観賞している。

タナトス五徳市の人口が100万人、仁科市の人口が約30万人。
     これほど大量の人間を犠牲にしておきながら、
      野民化した女性が、この娘一人だったとは、なんて不自然な話なのだ。
       あるいは、この娘の方に、なにか秘密でもあったのだろうか

ひさお(クールに)タナトス。嘆いている暇はないわ。
     野民の中では最高の知能を持った野犬の民ですら、
       影子の特殊能力の前には歯が立たなかった。
        次は、どんな手をうつつもりなの?

タナトス(薄笑いを浮かべ)マダム。
       あの野犬人は、娘と顔見知りだったと言う話ではないか。
     全ての失敗の理由は、そこにあったのだ。
      恐らく、感情に流されない別の野民で対抗すれば、同じミスは繰り返すまい

ひさお別の野民?
タナトスそう。血も涙もない、凶悪な野民だ
ひさお(妖しい笑み)それだったら、適任者を知っているわ


     ○下水道内

   暗い、薄汚れた穴の中を、コートを着たひさおが一人で歩いている。
   長靴で、下水の上をビチャビチャと音を立てて、進んでいる。

   やがて、彼女は立ち止まる。
ひさお(鋭い声で)ネズミ男、ラットマン。居るのなら、出てきなさい

   壁の一端の暗がりが形を作りだす。
   それは、次第に人間大のネズミの姿に見え始め、
   ついに野民ラットマンとして、ひさおの前にその全身像を見せる。
   不気味な唸り声。

   ラットマンが、口にくわえていた肉片を、ひさおの足元へと投げつける。
   ひさおが目を向けると、それは人間の片腕である。
ひさお(あきれた口調で)また、人間を食べてたの?
ラットマン(低い声で)ここは、オレの世界だ。迷い込んできた人間の方が悪い
ひさお可哀相に。ホームレスだったのかしら。
      ・・まあ、いい。ラットマン、あなたに良い仕事を持ってきてあげたわよ

ラットマンなんだ?地上の明るい光でも見られるのか?
ひさおそうよ。しかも、あなたは全ての野民のボスにもなれるわ
ラットマン(下品な笑い)野民のボスだと?面白い。
       オレは地上に帰る。そして、地上の奴らを、皆、奴隷にしてやるんだ。
         それで、どうすればいいのだ?

ひさお(妖しく笑い)簡単な事よ。一人の娘をレイプしてくれたらいいの


     ○仁科市・公園  (昼)

   ゴーストタウンさながらに、誰も居ない。

   影子一人が、芝生の上にたたずんでいる。
   その両手には、しっかりとナイフが握られていて、
   影子はためらいながらも、その刃先を自分ののど元へと近付けてゆく。
   しかし、それ以上は手が進まない。
   ナイフを持つ手はブルブルと震え、思いきって、突き刺す事ができない。

   フッとため息をついた影子は、ナイフを投げ出してしまう。
   彼女は、ぼんやりと周りに目を向けてみる。

   遠くから、何かが飛んで、近づいてくる。
   コウモリに似た、小さな生き物。しかし、胴体は球のようだ。
   野民ならぬ野獣バルである。

   バルは、影子のそばまで寄ってきて、人なつっこく周りを飛び回る。
   その愛らしい姿に、驚きながらも、つい影子の顔にも笑みがこぼれる。
影子驚いた。人間以外の野民なんて初めて見たわ。可愛い

   バルが、慕うように、影子に体をなすり付けてくる。
   影子も、優しく、その体を愛撫してやる。
影子私が同族だって、分かるのね。・・よし、私が飼ってあげる。
      きっと、一人じゃ生きてけないものね。
     良かったわね、おチビちゃん

   バルを連れた影子が、ゆっくりと歩き出す。
   彼女も元気を取り戻し始めている。
影子(つぶやくように)名前を付けてあげなくちゃね。
      風船みたいだから、バルーン・・そう、バルなんて、どうかしら


     ○牧村邸・前庭  (夕方)

   アヤが、弱っている下子相手に、無邪気にはしゃぎ、遊んでいる。
   牧村博士は、庭先から、遠方に見える仁科市の方を眺めている。

   そこへ、家の中から、表情を隠した影子が出てくる。
牧村(影子の方を見て)あ、影子さん。体の調子は、もう大丈夫なのかい
影子(ためらいつつ)は、はい、おかげさまで
牧村君が仁科市の方へ出向いていたらしいと聞いたから、心配してたんだよ。
   ニュースで見ただろう。
   仁科市でも、五徳市と同じ有害ガスが湧き出したと言うんだ。
     町を閉鎖する為に、あたりでは軍隊が出動して、大騒ぎになっている。
    全く、世も末だよ。君はガスを浴びてない様子だから、何よりだった

影子ここは大丈夫なんですか
牧村町からは、だいぶ離れているからね。電気や水道も別のルートからひいているし
影子しかし、なぜ、こんな僻地で開業などを?患者もあまり来ないんじゃ
牧村(にっこりと)のんびりとした自然は嫌いかい?
   影子は、少し考え込む。
影子(ポツンと)アヤちゃんと何か関係あるんですか
牧村(困った感じで)あの子は、母親に早く死なれてね。私の妻の事だけど。
     きっと、淋しいんだよ。悪い子ではないんだけどね

   影子は、無言のまま、微妙な表情を見せる。

牧村しかし、世の中どうなってしまうんだろうね。
    公害、環境破壊、大気汚染、
    あげくは、有害ガスが湧き出るような事件まで起きてしまうようでは・・

   その時、突然、遊んでいたアヤが、痛そうに苦しみだす。
   心配そうな下子もすぐアヤを抱きかかえるし、牧村も過敏に動き出す。
   二人の反応に、影子もあざとく何かを感じ取る。
牧村(テキパキと)下子くん。すぐアヤを寝室の方へ!
   牧村たちは、影子にかまわず、家の中へと戻ってしまう。   (FO)


     ○牧村邸・影子の寝室  (夜)

   ベッドの横で、こそっと影子がバルにミルクを飲ませている。
影子ごめんね。あなたの事は、皆には内緒なの。
    窮屈かも知れないけど、しばらくは、ここで隠れていてね


     ○牧村邸・食堂  (同)

   牧村が、食卓について、くつろいでいる。
   そこへ、影子がやって来る。

影子(牧村へ)アヤちゃんの様子はどうでしたか
牧村(優しく)ああ、心配かけちゃったね。なに、時々あるんだ。寝かせてやれば、すぐ治る。
    (笑って)
それに、父親が名医だしね
影子でしたら、いいんですけど
牧村君も、様子を見にいってあげれば、きっと、あの子も喜ぶと思うよ

影子(ためらいつつ)あの・・牧村さん
牧村なんだい
影子さっきの話の続きなのですが、
    環境破壊とか大気汚染、やはり、もう地球って手遅れなんでしょうか。
     人類って、滅びちゃうんでしょうか

牧村さあ、どうだろうね
   影子の顔が、不安で暗くなる。
牧村しかし、これだけははっきりしている。
     別に、人間だって、自然破壊が目的で、
     これほどまでにも地球を汚してきた訳ではないと言う事だ。
   もし、皆が、その事さえ分かっているのなら、
      おのずと解答は出てくるんじゃないのかな

   牧村が、にっこり笑んでみせる。つられて、影子も微笑む。
影子(口ごもり)あの、私、アヤちゃんところ、行ってきます
   影子が、踵をかえし、去ってしまう。


     ○牧村邸・アヤの寝室  (同)

   ベッドに寝ているアヤの手を、横についた影子が、優しく握ってあげている。
   まるで、姉妹のようにも見える。

アヤ(無邪気に)おねーちゃんって、ママみたいな匂いがする

   アヤの素直な気持ちに、影子は戸惑っている。   (FO)

       (CM)


後編へ続く