第6話「氷の城」  
THE COLD WORLD  

 

      ○道路  (昼)

   平野の真っただ中に、高速道路風の一直線の道が伸びている。
   そこを、アヤ、下子、球異の三人がトボトボと歩いている。

下子(ブツブツと)全く、役立たずの探偵だな。
     こんなに歩く羽目になるんだったら、最初からレンタカーでも準備しとけよ

アヤ(か弱げに)疲れちゃった〜
球異仕方ないじゃありませんか。
    聞き込みじゃ、影子ちゃんの最後の目撃場所がこのへんだと言う事だし、
      道の外は歩かないと調べられないでしょう。
   それに、駐車場も見当たらないし

下子偉そうな講釈は、彼女を見つけてから、言え。このヘボ探偵
球異(うろたえて)あ、あ、あ。また、ヘボって言ったぁ!
下子何度でも言ってやるよ。ヘボ、ヘボ、ヘボ!
   二人のやり取りを見て、アヤの顔にも笑みがこぼれている。

   戯れている彼らのそばを、大きめの冷凍トラックが走り過ぎていく。
   三人には気付かれていないが、
   トラックの後ろからは、バルが必死に追っ掛けている。
   そして、トラックの運転手は、能面のような表情をしていて、
   妖しい笑みを浮かべている。

   タイトル「第6話 氷の城」


      ○フリーメン・アジト

   小じんまりとした会議室風の場所。
   ひさおとタナトスが、テーブルを囲み、
   ゆとりの様子で、ワインで乾杯なぞしている。

   そこへ、部下を引き連れたプリンスがドカドカとやって来る。
プリンス(イライラと)マダム、何をのんびりしている!
     プリンセスの足取りが途絶えてから、もう数カ月近くたつのだぞ!
       心配じゃないのか

ひさお(涼しげに)おや、いらっしゃい。あなたも、一緒にどう?
プリンス話をそらすな!プリンセスは、あんたの姪だぞ!気にならないのか
タナトス(笑って)まあまあ、プリンスくん、落ち着きたまえ。
      彼女は、無事、捕獲されたよ。もう、捜索の必要はないのだ

プリンス(ギョッとして)何だって・・
ひさお(冷ややかに)ごめんね、黙ってて。
      ほんとは、一月以上前から、私たちの方では、この事を知っていたのよ

プリンス(うろたえながら)じゃあ、プリンセスは、今、どこに
ひさお(サラリと)氷の城。あなたも、会いに行ってみれば、いいわ
タナトスそう。ペギンジンの元だ
プリンス(顔が引きつり)氷の城・・


      ○荒野  (夕刻)

   とても、だだっ広い。草木もない、完全な荒れ地である。
   そのど真ん中に、アヤ、下子、球異がポツンと立っている。

下子(かんしゃく気味に)おいおい、こんなところ、探して、どうなるんだよ!
      家一つ見つからないぞ!

   下子が、そばのアヤに目をやると、アヤも不安げな表情をしている。
球異で、でもですね。
    この周辺で、影子ちゃんの飼っていた、あのおかしな生き物、
       コウモリみたいな奴が目撃されたと言う報告があるんです。
     影子ちゃん本人の情報が全く得られない以上、
      こんな情報にだって頼るしかないじゃありませんか。
    それに、永山さんも、この地域が怪しいって言ってたし

下子(苦笑いし)誰だよ、その永山さんって

   その時、パトカーのサイレンが聞こえてくる。
   三人がハッとして、サイレンの方へ目を向けると、
   道も無いところを走って、パトカーが彼らのそばへと向かってきている。
   パトカーは、すぐに三人の前にまでたどり着くと、停車して、
   中から制服警部の中村が降りてくる。
   温厚そうな中年の男である。

中村(弱り顔で)困るねぇ、君たち。
     ここは私有地だよ。立ち入りは禁止になっていたはずだ。
       ピクニックでもしてたのかね

下子(おたおたと)あの、その、どうも、すみませんでした
球異(胸を張り)いやぁ、お構いなく。
     おいらは、地元が生んだ名探偵でして、
        今、重要任務を帯びて、ここで人探しを・・

   下子が、慌てて、球異の口を押さえ込む。

下子(ペコペコと)すぐ出て行きます。ほんとに、お手数おかけしました
中村(きつく)いや、悪いが、ちょっと署まで来てもらおうか。
         逮捕するわけではない。調書を取りたいのでね

下子(うろたえて)え、え!不法侵入しただけですよ
   言い訳も聞かず、中村は、強引に下子たちをパトカーに乗せ出す。
球異(わめく)ひえっ。
     おいらは、犯人をパトカーに乗っける方で、乗っかる方じゃないぞ〜

   有無も言わさず、三人はパトカーに乗せられてしまい、
   中村も乗ったパトカーが再び走り出す。

   荒野より走り去ってゆくパトカーの姿を、上空から眺めると、
   なんと、この荒野の地面には、ナスカの地上絵さながらに、
   フリーメンのマークが、巨大に描かれていた!


      ○警察署・通路  (夜)

   減なりした様子のアヤ、下子、球異らが歩いている。
下子酷い目にあったな。でも、ほんとに事情聴取だけで済んでよかったよ。
     (アヤへ)アヤさん、疲れてませんか
   やつれた感じのアヤが小さく頷く。
球異(笑って)まあ、この程度ですんだのも、おいらが有名だったからであり・・
下子(顔をしかめ)うるさい!全部、お前が悪いんだろ。
     (ふと、微妙な表情になり)でも、変だな、あの中村って警部、
       たかが、不法侵入ぐらいで、なぜ、こんなに過敏になっていたんだろう

      ○警察署・取調室  (同)

   一人になった中村が、電話でコソコソと誰かと話をしている。
中村(受話器へ)はい、無事、追い払いました。秘密には何も気付いてない様子でした。
     だから、彼らを処分するのは、どうか、許してやって下さい。
      責任は私が持ちます。
    はい、よろしく、お願いいたします


      ○荒野  (日中)

   鉄条網が張られていて、一部の区域が出入り禁止になっている。
   その入口のところへ、冒頭に出てきた冷凍トラックがやって来る。
   トラックは、入口でいったん停車する。
   入口の見張りも能面のような顔の男であり、
   チェックを済ますと、トラックを中へと通過させてしまう。
   その先にある地面の一部が浮かび上がり、地下への秘密の侵入口が出現する。
   トラックは、そこから内部へと入っていく。

      ○地下シェルター・通路

   近未来スタイルで、不気味な黒ずくめの男たちが行き来している。
   そこに、呼び出しの放送が流れる。
アナウンス(スピーカーを通して)ご報告申し上げます。
       閣下。ただ今、例の品物が到着いたしました。
          冷凍庫にて保管しています。ご検察の方、お願いいたします

      ○地下シェルター・冷凍庫

   冷えきった部屋の片隅に、他の冷凍物に混ざって、
   完全に氷の塊の中に閉じ込められた影子も、物のように、安置されている。

   そこに、黒ずくめの男たちを引き連れた、ペンギンの野民がやって来る。
   豪勢な服を身にまとい、
   ペンギン閣下と呼ばれている、このシェルターの支配人である。
   ペンギン閣下は、氷漬けの影子を見て、満足げに微笑む。
ペンギン閣下(甲高い声で)ふふ。
     この娘を捕らえよ、喰らえ、血をすすれ。我の卑しい伴侶とせよ

ナレーション人間の遺伝子ヒトゲノムの中には、
     進化の途中で発達が止まってしまい、
       未使用となった細胞情報が大量に含まれている。
    闇十字団のドクタータナトスが開発した薬品”霧”は、
     そうした細胞情報を再活発化させる作用があり、
       人間を他の生命力の強い動物とのあいのこである野民にと
            強制進化させてしまえるのだ。
    こうして生まれた沢山の野民たちは、
      今では、研究所内に収容しきれず、
        研究所の外のあちこちへと放たれ、
          
闇の世界に紛れて、暮らしているのである


      ○町中  (昼)

   雑踏の中、下子とアヤがたたずんでいる。
   そこへ、聞き込みを終えた球異が駆け戻ってくる。
下子(球異へ)どうだった?
球異ダメですよぉ。収穫ゼロ。やっぱり、あの荒野が一番怪しいんじゃ
下子(顔をしかめ)でも、あそこに行ったら、今度こそ逮捕だぞ
球異でも、他に・・

   その時、三人の前に、中村がいきなりヌッとやって来る。
中村(ぼそりと)やあ、君たち、また会ったね
下子(おたおたと)あ、中村さん。この前は、どうも・・
中村何か、お困りでも?気ままな旅をしているのも、大変じゃろう
下子いえ、お構いなく。もう、ご迷惑はおかけしません
中村(頭を掻きながら)それなら、いいが。
     警察の仕事を長くやっていると、色々、気遣いたくなる事も増えてしまってね。
      それじゃあ、また

   中村は、向きを変え、三人の元から去っていってしまう。

下子(つぶやく)何だよ、あの警部

       (CM)


後編へ続く