第8話「プリンスの最期」  
THE NEW MAN  

 

      ○羅呑町・市街  (昼間)

   快晴のもと、人も車も、路上に溢れている。
   ところが、いきなり、激しい地震が周囲を襲う。
   歩いていた人々は動揺し、停めた車から逃げ出す者もいる。
   そして、道路の中央部を突き破って、
   地面より巨大なギガントフラワーのつぼみが、ニョキニョキと伸びだす。


      ○高速道路  (昼間)

   長い一本道を、一台のジープが走っている。
   部下に運転させ、後部座席には、険しい表情のプリンスが座っている。
プリンス(つぶやく)今、行くぞ。待ってろよ、タナトスめ

   タイトル「第8話 プリンスの最期」


      ○羅呑町・郊外  (昼間)

   羅呑町へ続く一本道の道路が厳重に閉鎖されていて、
   警備の警官たちが、集まっているやじ馬達を、町の外側の方へと追い払っている。
   遠くに見える羅呑町の町並みの中には、
   うっすらとギガントフラワーが混ざっているのも確認できる。

   やじ馬たちの中には、下子とアヤの姿もある。
下子(ぼやく)オレたちが行こうとする場所には、
        なんで、いつも、あの花が咲いてるんだろうな。
     あの町に、ほんとに、影子さん、来てるのかなぁ

   アヤが、不安げに下子の服を引っ張り、下子はアヤの方を見る。
下子アヤさん。どうしたの?
アヤ(困惑気味に)探偵さん、どこ?
下子(ハッとして)あっ!そう言えば、あの野郎、居ないぞ!
      どこ行きやがったんだ。
    さては、あいつ、影子さんのもう一つの姿を見て、びっくりして、逃げ出したな!

   下子がキョロキョロと周囲を見渡す。

   そこから少し離れた、やじ馬の集団の中に、球異は紛れていて、
   下子たちの様子をこっそりと伺っている。
球異(つぶやく)下子、アヤちゃん、ごめんよ。
     これは、おいらにとっては、遊びではなく、大事な仕事なんだ。
       この先は、一人で行かせてもらうよ。
         二人とも元気でね

   球異は、下子たちの方に背を向け、スタスタと早足で去ってゆく。


      ○研究室  (昼間)

   窓から明るい日差しがさしており、あちこちの研究機材を照らしている。

   政府高官らしきスーツ姿の長老たちが、目の前に立つタナトスの話を公聴している。
   タナトスの横には、人間大のひとさし指の化け物(ナタン)が立っている。

タナトス(楽しげに)人間の体を構築する遺伝子ヒトゲノムは、
        基本的に、全部、同じものなのだが、
     細胞設計図の命令に従って、皮膚になる細胞、内臓になる細胞と言ったように、
       それぞれが異なる器官を形成してゆく事になる。
    この細胞設計図を書き換えれば、
       全ての細胞を一つの器官にしてしまう事も可能な訳だ。
     ムダな器官を無くして、わずかな器官だけで出来た人間を作れば、
         生体活動も効率的であり、
       環境破壊された世界でも、はるかに生き延びれやすくなる。
    そうした意図にもとづき、我が闇十字機関は新型の野民を開発した。
         これが、新人、通称ニューマンだ

   タナトスがナタンの方へ、手を差しのべる。
   ナタンの指紋位置についた一つ目がギョロリと動き、政府高官たちを睨み付ける。

   その不気味さに、政府高官たちは、ざっとどよめく。
高官の一人(おののき)タナトスくん。
       我々も、このような生物になって、環境破壊後の世界でも生き残れと言うのかね

タナトス(きっぱりと)その通り。
      ”霧”で作る野民とは違い、このニューマンになら、誰でもなる事ができる。
     これまでの最大の悩みの種だった生殖問題もいっきに解消された訳だ。
    しかも、なりたい体の器官だって、
       目だろうが、口だろうが、自由に選ぶ事ができるのだよ

   政府高官たちが、不安げに、お互いの顔を見合わす。

   その時、タナトスの元に、助手の一人が走り寄る。
助手タナトスさま!影子が、こちらに接近しています!
タナトス(ほくそえむ)なに、あの小娘が!
       ちょうどいい。新人ズウォーミーの能力の実験台にしてやる!


      ○羅呑町・近辺の丘の上  (昼間)

   バルを連れた影子が、すっくと立っていて、双眼鏡で、羅呑町の方を見ている。
   双眼鏡を通せば、
   羅呑町中心部にどっしりと生えているギガントフラワーの姿が明白に見える。

   影子は、座り込むと、地面に置いたノートパソコンをカチャカチャと動かす。
影子(つぶやく)第二次大戦における日本への原爆投下。
      野民を作る”霧”の散布実験。
        そして、今回のあの巨大花。
     同じ実験を二度、繰り返すのは、フリーメンのいつもの手口だわ

   影子が、パタンとノートパソコンを閉じると、
   その上に、飛んでいたバルがヒラヒラと舞い降りてくる。
影子(優しく)ここで、パソコンの番兵をしててね。
     今日は、エコ一人で行ってみるわ

   影子がバルの頭を撫でてやると、バルは、頷いたような、物悲しげな鳴き声を出す。

   そして、影子は機敏に立ち上がると、素早く服を脱ぎ捨て出す。
影子(叫ぶ)エクディーシス!
   影子の姿が、ドクガールに脱皮する。
   ムチを手にしたドクガールは、軽やかに舞い上がると、
   ゆっくりと羅呑町の方に向かって、飛翔する。


      ○羅呑町・近郊  (昼間)

   ドクガールが、アスファルトの道の上に沿って、空を飛んでいる。
   すでに閉鎖区域に入っているので、人影は何もない。
   道の左右に建っている家屋の数も、まだまばらである。

   やがて、道の前方に、高さ10メートルほどの巨大な物体が見えてくる。
   白いスライムのような体一面に、無数の目がついた怪物、ズウォーミーである。
   ズウォーミーは、体を揺すぶりながら、全ての目でドクガールを睨み付ける。
   この異様な怪物の姿をはっきりと確認したドクガールも、
   宙に浮いたまま、ムチを張って、身構える。

   先制攻撃を仕掛けたのは、ズウォーミーの方である。
   ズウォーミーの目の一つから、殺人光線が飛び出したのだ。
   照準が良くないのか、光線はドクガールから少しそれた場所に飛んでいき、
   ドクガールの方も軽くかわしてしまう。

   しかし、ズウォーミーの違う目から、
   次々に新しい殺人光線が、何筋にもなって、発射されだす。
   ドクガールは、飛びながら、光線の合間を器用にくぐり抜けて、
   徐々に、徐々に、ズウォーミーのそばへと近づいてゆく。
   ズウォーミーは、焦りの雰囲気を見せ始めているが、
   ドクガールが近づくほど、照準が合わなくなってくる。

   ついに、ズウォーミーに大接近したドクガールは、
   ムチを振り上げ、ズウォーミーの目を次々に叩き潰しだす。
   一つ潰されるごとに、ズウォーミーは身震いして、甲高い鳴き声をあげる。
   ズウォーミーの相当数の目が潰されてしまい、光線の発射量も鈍り、
   少し余裕を見せたドクガールが、ズウォーミーの上部へと移動する。

   その時、ズウォーミー頭頂部にあった目がパチリと開く。
   今まで、わざとつぶっていて、隠していたのだ。
   その目から発射された殺人光線が、油断していたドクガールの脇腹と片羽根を直撃する。
   苦痛に身悶えるドクガールが、ドサリとズウォーミーの真上に落下してしまう。
   ズウォーミーの上に乗っかった形になったドクガールは、
   怒りのムードで、よろよろと立ち上がると、
   バッとムチを振り上げ、ズウォーミーの頭頂部の目向けて、鋭く、そのムチを突き刺す。
   ズウォーミーが、断末魔の大きな鳴き声を出す。
   そして、その体がクタクタとよじれ始め、
   足場が傾いたドクガールも、
   ズウォーミーの上から、コロコロと地面の上に転がり落とされてしまう。

   地に立ったドクガールは、
   よろよろと立ち上がりながら、ズウォーミーの方をキッと睨む。
ドクガール(吐き捨てるように)夢に溺れて、地獄に落ちな!

   ズウォーミーは、潰された目から、粘液を出しながら、どんどんしおれだしている。
   一方のドクガールも、ズウォーミーのそばから少し離れると、
   今し方の傷を癒す為に、苦しげな声を出しながら、脱皮を始める。
   ドクガールの皮が取れ、少女の姿の影子に戻る。

   脱皮したばかりの半裸の影子が、
   観察するつもりで、ズウォーミーの亡き骸のそばに近づいてゆく。
   ズウォーミーは、見るからに気色の悪い化け物である。
   その時。
ズウォーミー(女の声で)私も、あなたのような美しい姿になりたかった・・・
影子(ハッとして)あなた、女だったの!
   今度こそ、完全に死んだのか、
   空気の抜けた浮き輪のように、ズウォーミーの体が急速にしぼみ出す。
   その哀れな断末魔を、影子は複雑な表情で見届ける。

   さらに、そんな影子の姿を、近くの家屋の影に隠れて、見張っている者がいる。
   サングラスをかけた、アーマー服の永山である!   (FO)

       (CM)


後編へ続く