27、正一の大きな勘違い

 第5話「子どもの地獄」の残酷ないじめオンパレードの間に、ひょっこりと、学校の屋上にて影子と正一が二人っきりで穏やかに語り合うシーンがあ ります。この部分は、作者の私も特に気に入っている場面だったりするのですが、作者の一押しであっても、決して内容はほのぼのした優しいものなどではな く、いじめの最中のホッと一息の安らぎのような情景の中にも、いじめ現場以上に恐ろしい会話が二人の間に交わされます。
 いじめられ続ける影子 が、このまま自殺しちゃうんじゃないかという恐れの中、影子は、謎の液体が入ったガラス容器を手にしてみせます。影子の説明を聞いた限りでは、その液体の 正体は毒薬としか思えないのですが、その事がなおさら正一の不安を膨らませます。恐らく、読者も同じように判断したはずでしょう。
 しかし、事実は全く違ったのです。
「この中には、どんな人間でも幸せにできる薬が入っているのよ」
 影子は、この世の生き地獄から解放してくれる毒薬の事を皮肉でそう表現したのではなく、なんと、この液体はそのセリフ通りの本当に人を幸せな気持ちにしてしまえる特殊薬だったのでした。
  従来のいじめ小説とは、このへんから、本作はずれてくる事になります。普通なら、この先、影子は自殺すると言う展開になりそうなものですが、自殺の伏線か と思われた薬物は全く反対の使われ方をする事になり、ついに、この「影の少女」という物語も本格的に動き出す事になります。
 本作の最初のキーア イテムとなる魔法の液体は、実は、第2話の時点で、影子がわざわざ以前住んでいた屋敷からアルバムといっしょに取ってくるという形で早くも顔見せしてお り、決して行き当たりばったりに作中に現われたものでもありません。何となく、思いつきのように話が進んでいるようにも見える本作「影の少女」ですが、実 際には、計算された伏線が常に事前に挿入されており、ストーリーは全て綿密な計算のもとに構築されているのです。
 正一(と読者)が、薬の正体を毒薬と間違えてしまうような話の流れも、そうした計画的なストーリー構成の一部であり、この勘違いで影子の真意を見抜けなかった事が、のちの影子の暴走を止められなくなる先駆けとなっている訳です。

 

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