28、正一の色眼鏡

 「影の少女」は、正一の手記と言うスタイルで書かれていますので、その内容は必ずしも客観的ではなく、ところどころに 正一個人の普段の癖や思い込みなんかも混ざってしまっている部分があります。そのへんを素直に受け入れずに勘ぐりながら読んでいけば、「影の少女」の違う 真実も見えてくるはずでしょう。
 第5話「子どもの地獄」は、影子びいきの正一の視線で書かれている為に、徹底的に影子に同情する姿勢で綴られて おり、影子をトーゼンの善と位置づけた上で、影子中心の善悪配置図が展開されているのですが、これさえも、よく読めば、正一自身の好意や独善などで皆の立 ち場所が振り分けられているらしい事がそれとなく分かるのであります。
 まず、正一は、影子が全く非の無いイジメ被害者だと考えているようです が、これまで正一自身が紹介してきた影子の学校生活のエピソードを見ただけでも、影子がけっこうトラブルを起こしやすい生徒だった事は明白です。その中に は、他生徒を怒らせるような問題行動もあったようで、そのへんについては、正一はまるで指摘しようとはしません。いじめられるようになってからの影子への 評価として、「影子は根はずるがしこい」とか「影子はいつも人を見下したような喋り方をする」とも言われていた事を正一も知っていたようですが、一連の影 子の行動を見れば、アンチ影子には確かにそう見えそうな影子の言動があるにも関わらず、正一は全くそれに気付かない、あるいは、認めようとしないのであり ます。
 また、正一は、自分の友人や親しい生徒には、かなりの好評価で、影子を助けてあげなくても、洋平やゆう子、光子らの事は理屈なしで善人扱 いであり、他方、影子に馴れ馴れしくした事で嫉妬したのか、影子の相談に乗ってくれているクラス委員の高二郎の事はやけに悪く言ってたりします。それでい て、高二郎と同じぐらいしか、影子の力にはなっていない太田先生の事は、やたらとかばっているのです。なによりも、自身が影子を助けようとしない事に、必 死に弁解めいた事を述べているのがおかしかったりもします。
 こんな感じで、「影の少女」とは、どこまでも正一の偏った視線から書かれた小説なのであり、真実は、正一自身の分析ではなく、正一自身の提示した文章から自分で読み取っていかなくてはいけない仕組みになっている訳です。

 

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