5、影子が正一を好きな訳

 「影の少女」で、もっとも不思議な部分は、なぜ、影子ほどの超越的少女が正一ごとき平凡な少年に恋心を抱いているのか、と言う点なのではないのでしょうか。(笑)
 実は、これは論理的に説明ができる設定なのであります。
 正一の方が、超美少女・影子に惚れてしまった件については、一見、説明の必要がないような感じもするでしょう。しかし、この二人が、お互いに相思相愛なのは、実際は、同じ理由に起因しているところがあるのです。
 二人は、幼い頃に、一度、出会っていました。正一の手記から分かりますように、それは心の奥深くに刻み込まれる原初体験となっており、まさに、ひよこのインプリンティング(刷り込み)のごとき、のちにお互いが相手に恋心を抱くようになるきっかけとなっていた訳なのであります。
 作中の「幼い頃の影子のシーン」は、決して、ただの読者サービスなどではなく、重要なストーリー設定の一つとして、挿入されていたのです。
 正一の方は、幼い時に目の当たりにした美少女・影子のインパクトが、完全に「理想像」のイメージになってしまいました。
 対する影子は、閉鎖された環境で、人との交流を禁止されていたので、「男」そのものを余り知らなかったのです。そんな中で、正一は、唯一、幼少時の影子が同世代で触れ合う事ができた男性だったのであろうと思われます。すなわち、影子の知ってる「男性像」とは、「正一だけ」と言っても、過言ではなかったのであります。このような状況では、たとえ、本当はくだらない男性だったとしても、影子が正一に特別な愛着を抱いてしまったのは仕方のない話だったのかもしれません。
 影子を自分の家で引き取る事になり、正一は内心うきうきしていましたが、引き取られる方の影子も、正一と再会できる事をひどく期待していたであろう事は、うすうすと推察できます。しかし、はじめから二人は結ばれぬ運命なのであり、かくて再会は悲恋の始まりとなったのでありました。

 

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