72、ミュータントは天使のごとく

 山井博士は、影子の事を「天使人類」と命名しようとしましたが、そのラテン語表記である HOMO ANDROGIN には「天使」という意味合いはありません。アンドロジンとは「両性具有者」の事であり、学名ではストレートに「両性人類」だった事になります。
  それが日本語に訳すと、なぜ「天使人類」になってしまうのかと言いますと、そもそも、キリスト教上の天使とは両性具有の高次的存在なのでありました。山井 博士は、けっこう洒落っ気があったらしく、現人類以上の存在である両性具有ミュータントの事を天使に見立ててみせたのです。
 本編内では、いかにも進化的必然からミュータントとは両性具有生物になるかのような理屈を展開してみせましたが、実際には、もっと哲学的発想に基づいて、両性具有ミュータントという概念は生まれました。
  古い時代より、世界のあちこちで、人間とは男女が一体化して、はじめて完全になる、という思想が伝わっているのであります。人間以上の存在である天使とか 菩薩と言った半神が両性具有と見なされているのも、その為です。ギリシャ神話にも、人間はもともと両性具有だったが、引き離されて、男女の二種類に分か れ、元に戻りたいと思う願望から結婚するのだ、という説話があります。
 このように、「影の少女rewrite」に出てくる両性具有とは、本当 は、生物学的にではなく、むしろ、哲学的見解ゆえに優秀な存在だったのです。私は、こうして、古くから伝わる両性具有思想をムリやり進化論と結びつけて、 もっともらしい理由を添えてみせただけなのでした。
 肉体的に両性具有(半陰陽)の人や、性同一性障害と呼ばれる精神面で両性具有的な人は、現実 にも存在しています。そのような人たちと、完成された両性具有者であるミュータントの影子を、どう区別するのかは、非常に難しい部分なのですが、たとえ ば、影子が性同一性障害者と同じような意識で悩んでいたらしい説明もありますし、彼女の女性器に異常があったらしいという事も作中では指摘しておきまし た。決して、影子の存在はリアルな両性具有者と大きくかけ離れていた訳でもなかったのであります。

 

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