8、正一は、なぜ、この手記を書いたか?

 「影の少女」と言う小説は、基本的に、正一少年の一人称という形で、話が書き綴られています。つまり、この小説は、本当は、架空の人物・正一の手記、疑似ノンフィクションなのです。
 では、正一は、なぜ、このようなものを書き残す事にしたのでしょう。その動機を探ってみる事にしましょう。
 本作では、最終的に、影子は敗北し、「人類の敵」として、極悪犯罪者の汚名を着せられてしまう事になります。多分、彼らの世界では、それが一般認識として、ごく当たり前に広まっていたのでしょう。しかし、影子を好きな正一としては、それは余りにも辛い事実だったのではないのでしょうか。
 だからこそ、正一は「影の少女」を書いたのではないかと推測されるのです。つまり、これは、冤罪の影子を救う為、正一が世間に訴えるべく発表した、真実の暴露の書だったのです。
 そう考えれば、「影子びいきの人類批判」な内容や、必要以上に「影子の被害の受けぶり」を丁寧に記載している理由も頷けてくるのではないのでしょうか。
 そもそも、それらが目的だった訳ですから、正一は、もともと、作品の文学的完成度なぞは目指していません。だから、この「影の少女」と言う小説は、表現形式に統一性が無く、全体の流れが不整合なのも、納得できてくる次第なのです。
 そして、正一が、この小説を書いた理由は、もう一つ、考えられます。
 ラストで、影子は行方知れずになり、彼女の持ち物類も全て警察に没収されてしまい、正一の手元には、影子の息吹がかかったものが1本のビデオテープのみになってしまいました。でも、正一にしてみれば、影子との思い出は忘れてしまいたくないものであろう事が容易に伺え、記憶が薄れてしまう前に、頭に浮かぶ事を、一通り、文章にして、残しておく事にしたのではないかと思われるのです。
 こう考えれば、本筋に直接つながらない「影子の日常」や「いじめの数々」についても、いちいち記載している理由が、説明がつく訳です。
 だから、「影の少女」と言う小説は、まさに「影子」の為の小説なのであり、別の何かを求めて、読んでも、まず正しい内容を理解しきれないでしょう。本当に「影子を愛する者(作者の私を含む)」だけに捧げる作品なのです。

 

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