82、ひねくれた影子

 永山事件を引き起こしてから、ずっと姿をくらましていた影子が、再び正一と太田先生の前に現われた時、彼女はとんでもない不良少女にと変わっていました。
 これまでは、どんなにヒドい目に会わされても、ずっと善良さを保ち続け、従順で可愛い影子であり続けただけに、この豹変ぶりには正一も太田先生もとにかく驚きを隠せません。
  それどころか、影子は、いくら咎めても、自分の態度をあらためようとはしませんでした。ついには「普通の生活って、どんな生活?自分を押さえ、意地悪な人 間のわがままに振り回されて、ただ死ぬまで無味に生きてゆく生活の事?もう、うんざりよ、そんな世の中なんて」とさえ、うそぶく始末です。
 いじめられていた頃は「自分の事は、皆が考えてくれるわ」と主張していた(第6話)女の子が、とうとう、こんな事を叫ぶようになってしまったのでした。まさに、周囲の人間に裏切られ続け、完全に失望した結果だったのでしょう。
 のちに、影子は、よりはっきりと「エコは、いつだって、ひとりぼっちなのよ。友達も、好きな人も、いやしない。エコもね、自分の為に生きてゆくしかなかったのよ」と、孤独で絶望した本心を口にする事になります。
 しかし、これは、一匹しかいない生物(ミュータント)の影子だけに限った話だったのでしょうか。実際には、一部の犯罪者や不良なども、この影子と全く同じような心境を告白するものであり、むしろミュータントと言うよりも犯罪者心理として受け止めるべきものなのです。
  影子の孤独とそれが招いた暴走は、決して、ミュータントだけの特別なものとして片付けるべきではないのかもしれません。孤独や絶望から狂気に走ってしまう のは我々人間にしたって同じなのであり、本当は、これは我々自身の心の闇として捉えなくてはいけない、大きな問題なのです。

 

表題に戻ります