87、幸福なる世界征服

 第16話のサブタイトルは「地球の独裁者」ですが、実際に本文を読むまでは、影子があらたな敵である「地球の独裁者」と対峙するのか、それと も、影子自身が「地球の独裁者」になってしまうのかが分からず、かなり読者の気を引く見出しとなっています。結局は、後者の方が正解でした。もっともミジ メな存在(学校のいじめられっ子)だった影子が、いっきに人類のトップ(地球の独裁者)にのし上がってしまう展開は、むしろ痛快だとも言えるでしょう。
  しかも、影子が実行する世界征服方法も、通信衛星をジャックして、地球一帯に洗脳電波(アルファ波)を流すと言う、奇想天外ながら、もっとも合理的なやり 方です。この天から洗脳電波を降らすと言うアイディアは、実は、ノストラダムスの大予言「空から恐怖の大王が降りてくる」をかなり意識したイメージでし た。つまり、ノストラダムスが予言した「恐怖の大王」とはミュータントの影子の事だったのであり、この「影の少女」の物語そのものが、1999年頃の出来 事として想定されていた訳です。
 影子の世界征服は、影子自身のワガママや支配欲が動機ではなく、人類全てを平和で幸せにしようと言う、崇高な理 想にのっとったものでした。これまでの影子自身が不幸な存在でしたので、自分のような人々を救済したいという思いもあったのかもしれませんが、作者の私と しましては、彼女の思惑とは別に、「世界征服」に対する発想の転換を盛り込んでいました。一般に「世界征服」などと言うと、悪い事のように見られがちで す。しかし、征服された結果、今より被支配者層が幸せな状態になれたとしたら、それでも悪と呼ぶべきなのでしょうか。そもそも、現状の世界では、大多数の 人間はあまり幸せで満足な状態であるようには思えません。むしろ、ものすごい独裁者でも現われて、びしっと世界改革をしてくれた方が、逆にずっと皆が幸せ になれるかもしれないのであります。つまり、「ちっとも悪くない世界征服」であっても、絶対に否定しなくちゃダメか、という事です。まさに究極のテーマと も言えるでしょう。
 いちおう、作中では「自由こそが一番大事」という観念から「影子の理想的世界征服」もとりあえず否定してみせましたが、この結論が本当に正しかったかどうかは、むしろ諸個人がそれぞれで考えるべき問題なのかもしれません。

「38、いじめの解決の難しさ」も参照のこと)

 

表題に戻ります