9、「影の少女」悪役名鑑

 「影の少女」には、第1話、第7話、第9話、第14話に、それぞれ「ファイル」と称された<コラム>のような文章が、全部で六つ、添付されています。
 「正一の手記とは別作者の執筆物」と言う形をとっており、ここでは、正一も知らない「影の少女」の裏設定を読む事が出来たり、のちに本編にも関わってくる大切な設定が先に書かれてあったりします。
 この小説としての表現形式自体は、S・キングとか都筑道夫氏とかが得意とする書き方の模写なのですが、「影の少女」の場合、この「ファイル」は「影子の被害者リスト」転じて「影子に潰された悪人リスト」となっています。(「ひさお」が含まれているのは、彼女も、影子に殺された可能性が濃厚だからです)
 なぜ、わざわざ「悪人リスト」なのでしょうか。
 それは、主人公に滅ぼされる引き立て役の悪党にしても、実際は、その奥に彼らなりのドラマを持っているものだからなのです。ゆえにこそ、はかない彼らにもスポットを当てるコーナーを設けてあげたかったのです。
 重要な事は、作中では、どれも似たような悪人にしか見えない彼らが、生い立ちや背景という点では、誰も類似点がないと言う部分です。人は、「悪人」を全部、同じものと見なしがちです。しかし、実際には、さまざまなタイプ、動機、主義があるのであり、それは彼らに触れる上で、決して忘れてはいけない事実なのであります。「ファイル」のコーナーでは、そうした各種の悪人類型を閲覧できる仕組みとなっていた訳です。
 影子との直接接触で倒されなかった為、山精と山井博士は「ファイル」入りしそこねてしまったのですが、この二人も、違うタイプの「悪人」でしたので、漏れてしまったは、残念な感じもいたします。
 ちなみに、影子の被害者?たちは、いずれも違う末路をたどっています。内容にバリエーションを持たせる為、意図的に、そう取り計らったのです。事故(ひさお)、病気(米田)、他殺(爪田)、自殺(大場)、発狂(桐生)、逮捕(永山)、そして、影子自身は「行方不明」となって、本作は幕を閉じる次第です。

 

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