マルス惨劇行

(「湾岸大戦争編」シノプシス)

 

本作は、「ゼカリヤ!」のスピンオフ作品の一つで、「ゼカリヤ!」に登場した世紀末宗教エバが世界各地で暗躍する20世紀の終わりに、その敵対者の一人である地上最強の殺し屋マルスの方の動向を追った冒険活劇です。と言う訳で、主人公は殺し屋マルスの方なのですが、エバ組織の主要メンバーの一人として、影子もばっちりと準レギュラー登場しています。
このエバや殺 し屋マルスなどが登場するエピソード群は、元々、ノストラダムスの1999年世界滅亡予言をキーワードにした空想未来史だったのですが、1999年が過ぎ てしまった事で完全に「かむろの時間」と化してしまいました。とは言え、実際の事件を元ネタにしたストーリーも混ざっている訳で、本作「湾岸大戦争編」 は、あの湾岸戦争(1991年)を私なりにドラマチックに加工し直したものなのでした。この「マルス惨劇行」では、特に、この手の実際の史実をひねり変え た話が多く、ちょっとした「もう一つの20世紀末史」っぽくなっています。漢マルスを主役に迎えたアクション路線のストーリーの数々は、少女・影子が主演 では描けないような、男ならではのロマンにも溢れており、結局のところ、シノシプスしか書かれなかった上、いまだに未完状態、ネットでも僅かこの程度の内 容しか公開できないのが残念な作品でもあります。

 

マルス

 199X 年、アラブの軍事大国・マリン王国は、各国の警告を無視して、独裁者ビラード王の指揮下、隣国へと軍隊を侵入させた。さらに、その隣国には、イスラム圏共 通の宿敵・イスラエル国がある。狂気のビラード王は、今度こそ雌雄の決着をつけ、さらに自国の権力の拡大を企んでいたのだ。
 アメリカをはじめ、西欧先進国は、その動きに急速に反応し、アメリカ中心の連合軍を結成すると、さっそく大軍隊をアラブの方へと派遣した。もはや、両軍が衝突するのは、時間の問題となっていた。
 これが、歴史に名高い湾岸大戦争の始まりである。
  このありさまをがく然として、眺めていた老人がいた。日本が誇る考古学の巨星・西森博士である。彼は、世界考古学会の代表として、この中東の砂漠に降り立 ち、あちこちに軍隊が待機しているのを見て、カンカンになっていた。彼の目的は、貴重な中東の古代遺跡を保護する為にも、このおぞましい戦争を至急中止す るよう勧告する事のみ!
 助手をひき連れ、連合軍本部キャンプへとジープを走らす西森の前に、途中、一人の美少女が現われる。彼女は日本人らし く、エコと名乗り、観光中に戦争が起きたため、逃げ遅れてしまい、ぜひ安全地帯にまで送ってほしいと言う。了解した西森は、彼女も連合軍本部にまで連れて ゆく事にする。
 その連合軍本部には、ヘリで今、総指揮官ロバートが到着したところだった。彼はアメリカ陸軍大将であり、西欧諸国軍の指揮も全て任せられていた。その彼の元へ、さっそく西森が面会しにやって来るが、ロバートはまるで相手にしなかった。
 ロバートいわく「これは、正義の戦争なのだよ」。怒った西森は引き下がり、助手を連れて、さっさと出て行ってしまうが、代わりに、残っていたエコがロバートの主張をあざ笑った。
「マリン王国が他国を脅かす暴力の野獣ならば、それを暴力によって鎮めたがるあなたがたも立派な野獣みたいだわね」このエコなる少女とは、一体?
 さて、連合軍本部を離れた西森は、各地の遺跡が無事かどうか、ジープで砂漠を走り回っていた。その途中、またもやヒッチハイカーに出くわす。
  今度も日本人で、郡山と名乗る中年男性。彼は、実は日本最大の小野山コンツェルンの回し者で、戦争により、この周辺地域の物資が激しく消費されるであろう 事を予測した本社が、偵察の為に送り込んだ派遣員だった。彼は、西森のジープに乗っけてもらい、近くのパレスチナ難民キャンプまで同乗する事となる。
  一方、連合軍本部の方では、総司令ロバートを囲んで、今回の一大戦争作戦についての会議が進められていた。――マリン国が、隣国に駐在させた軍隊を退却さ せぬ限り、いずれは連合軍も攻撃を開始する。もし、イスラエルが戦争に参入した場合、アラブ連合も動き出す恐れがあり、ここは何としても自分たちだけの力 で、マリン国を阻止したい。さいわい、連合軍のハイテク兵器はマリン軍のものよりはるかに上だし、まず負けるはずはない。唯一の不安、マリン軍の脅威は、 連中の保有する毒ガス・ミサイルだが、この毒ガスに対しては、実験段階ながら、対策はできている。アメリカの誇るラストーロ研究団より、優秀な化学者プロ フェッサーが当地に派遣され、手を打ってくれる計画になっている。
 そんな話が交わされている矢先、国連情報本部より緊急の連絡が届く。「指名手配の殺し屋マルスが、現在、中東のどこかに潜り込んでいる可能性あり。仮に、彼を戦争に巻き込めば、やっかいになる恐れあり!」マルスの名を知るロバートらは、ややがく然とする。
 さて、西森博士の方はと言うと、パレスチナ難民キャンプにたどり着いていた。郡山は、キャンプの様子をうかがい、仕事に余念がなく、西森はブラブラとキャンプ内を歩き回っていた。
 そこで、このキャンプに住みついているらしき、日本人の青年を目撃。しかし、西森を驚かせたのは、彼が持っていた古代剣だった。てっきり、その青年は遺跡あらしだと思い込んだ西森は、怒って、その青年に突っかかってゆくが、その青年こそマルスだったのだ!
  マルスは、これは自分の剣であり、近所の遺跡からの盗品ではないと断言するが、西森は信じない。これは、明らかに作り物じゃないし、確かに古代中東様式の 剣だと言う。もちろん、マルスにしてみれば、これが日本の三種の神器・草なぎの剣である事は分かっているので、西森の鑑定はとんでもない見当違いで、あざ 笑うしかない。
 しかし、そこで、とんでもない事件が発生した。
 連合軍のリース将校ひきいる戦車部隊が、この難民キャンプに攻めてきたのである。戦争中、パレスチナ・ゲリラによけいな小細工をしてもらいたくない為、監視しに来たのだ。
 すっかり怯えきっている難民たちに、さらに威嚇的な態度を取り続けるリース一派に対して、マルスはもろに反感を持つ。
 そこへ、郡山がこっそりとリースに、このキャンプの武器倉庫の位置を告げ口したりする。リースは、ただちにそこを戦車で砲撃し、破壊炎上させ、難民たちを威嚇した。
 しかし、それでマルスの我慢も限度に達した。リースらの目前へと進みでたマルスが、怒りの宣戦布告をする。
「て めえら、どこまで弱い者いじめをすれば気が済むんだよ。ここにいる連中は、皆故郷を取られた被害者たちなんだぜ。イスラエルを責めないで、なんで、こっち の方を攻めるんだよ。全く、都合のいいクズどもばかりだよ。てめえらなんて10分だ!10分ありゃ、全員始末できる!!」
 かくて、マルスとリース戦車部隊の間で本当に戦闘になってしまう。
  はじめは、正体不明のマルスを甘く見ていたリースだが、歩兵は次々にマルスの剣のエジキになってしまい、ついには戦車群も作動させるが、鉄をも断ち切る草 なぎの剣によって、次々に破壊されてゆく。しまいには、退却する戦車にも草なぎの剣で雷を落とし、本当にものの10分で一個部隊を壊滅させてしまう。
 このマルスの破壊ぶりを、西森は感情的になって非難するが、マルスは聞く耳を持たず。しかし、救世主のはずの自分に対して、難民たちがすっかり怯えきっているのを見て、マルスはがく然とし、やむなく、このキャンプを去るハラを決める。
 郡山は、この謎のコマンド・マルスに金儲けの匂いを感じ、また西森も、助手にそそのかされ、マルスの持つ草なぎの剣の秘密を探る為、去り行くマルスに同行する事にする。
 さて、この難民キャンプの一大戦闘の情報は、曖昧ながらも、ただちに連合運本部にも届いていた。マルス一人で、これだけの活躍ができるとは信じられないロバートは、これをマリン軍の仕業だろうと判断し、ついに戦闘開始の指令を全軍に発する。
 そして、その問題のマルスはと言うと、難民キャンプを出発し、あてどもなく砂漠をさまよっていた。あちこちに連合軍が駐留し、周辺を包囲している為、マリン王国の国境沿いを移動するしかない。
 空にはボチボチ、連合軍の戦闘機がマリン王国の首都メギド向けて飛んでいくのが見え、西森のジープの無線も妨害電波の為、使用する事ができない。「ついに、連合軍側のいっせい攻撃が始まったらしいな」と、郡山が言う。
  そんな矢先、空を行く戦闘機の一つが、突如、一発のミサイルに命中して、火を噴いた!!驚いたマルスの一行は、慌てて、その戦闘機の不時着地点へ向かう。 そこで、かろうじて生き残っていたのは、あのエコと言う少女だけだった。この戦闘機は無防備であり、エコを安全地帯へ連れていこうとしている最中だったの である。
 不時着した戦闘機は燃え上がり、パイロットは即死。かろうじて、その前に外へ押し出され、命を取り留めたエコもケガをし、失神していた。
 まずは人命第一と考えた一行は、無線も使えない事だし、ひとまずエコを、もっとも近くにあるマリン王国辺境の村に連れてゆく事にする。
 さて、他方で、戦火は激しくなりだす一方だった。ハイテク兵器を駆使する連合軍は、メギド市を中心にマリン国のあちこちの軍備施設、駐留軍隊に空爆の猛攻を加えてゆく。妨害電波の為、統制された行動のできないマリン軍は、無惨にも連合軍のエジキになっていった。
 総司令官ロバートは勝利を確信し、高笑いする。「独裁者ビラード死亡の情報は、まだ流れてこないか!」
 しかし、そんな天狗状態のロバートの前に、ようやくマルスと戦った部隊の生き残り、リースが連れてこられる。やつれ果てたリースは、必死にマルスの強さを訴えるが、信じられないロバートには、狂人のたわ言にしか聞こえなかった。だが、そこで老兵の参謀が口を挟む。
「マ ルスの持っている剣というのは、きっと草なぎの剣だ」かつて、ベトナム戦争にも参加した事のある、その老参謀は恐るべき新事実を語る。草なぎの剣は、日本 の大和民族に伝わる無敵の守護剣である。それを強奪した、かつての米軍は世界最強国に成り上がったが、その剣をベトナムで紛失してから、急に戦運が無くな り、ベトナム戦争でも大敗してしまったのだと言う。
 ――もし、その剣を持ったマルスが、マリン国側にでも味方しようものなら・・・。
 ロバートは、がく然として、冷や汗を流す。
 そのマルスらはと言うと、無事マリン国の辺境の村にたどり着き、小さな宿に泊まり、一息ついていた。エコも眠っているが、命に別状はないようだった。
 こんな小さな村ですら、開戦のため、すっかり村人たちは落ち着きをなくしてしまっていた。そんな中で、マルス、西森、郡山らはおのおのに行動する。
  だが、そんな時、この村にマルスらヨソ者が来たと言う情報を得て、近くに在留するマリン軍が村に攻めてきた。マルスらが連合軍のスパイではないかと考えた のだ。ついに、宿まで入ってきて、マルスらと対面したマリン兵たちに対して、マルスは怒りを感じるが、騒ぎを起こされたら困るので、西森らが慌てて押さえ 込む。
 あっけなく、マルスらはマリン軍のとりこにされてしまい、マリン兵らはエコの寝ている部屋にも押し入る!しかし、エコはすでに起きてい た。そこで、不思議な事が起こった。エコに妖しく睨まれた途端、マリン兵らは皆ボケてしまい、とりこにしておいたマルスらの事も忘れ、何もせずに去って いってしまったのだ!!
 このエコの力の秘密は!?
 しかし、それを深く追求しているヒマはなかった。ラジオから突然マリン国営放送による臨時ニュースが流れ出したのだ。
 開戦後初のビラード王による演説である。連合軍のあれほどの空襲にも関わらず、ビラード王はまだ生きていたのだ。
 偉大なるビラード王は、かくマリン国民たちを激励する。
「悪魔のアメリカ軍は、ついに無抵抗なる我らマリン国に攻撃を開始した。これは聖戦だ。暴力しか知らぬ野蛮な連合軍に天誅をくわえ、我ら神民は千年王国を築かなくてはいけないのだ。悪魔のアメリカ軍とイスラエル国に、大いなる神の怒りが下るように!」
 この大ビラード王の演説の反響は激しかった。
 マルスらのいる宿でも、この放送を聞いた村人たちは、すっかり喜びを取り戻していた。連合軍側では独裁者扱いされているビラードが、国内ではこれほどまでも英雄視されている事に、マルスは不思議な疑惑を感じる。
 また、ロバートらも残念がって、ビラードの放送を聞いていた。毒ガス・ミサイルがついに使用される恐れがある、と慌てて警戒態勢を敷く。
 そして、マルスは一つの決意を固めていた。「この男(ビラード王)に会わなくてはいけない」マルスは、これから危険なメギド市へ向かい、ビラードと面会してくると言うのである。
 この発言には、エコも西森も驚かされる。
「マルスさん。あなたがどう動こうと、マイナスにしかならないのよ」エコはそう忠告するが、マルスはすでに聞く耳を持たなかった。
 その事をちゃっかり、つまみ聞きした郡山は、何かを企み、メギド市にいる仲間の方へとトランシーバーで連絡を取る。
 一方、ロバートの恐れが的中して、ついにメギド市より一発の毒ガス・ミサイルが発射された。それは、連合軍の兵舎キャンプの一つのそばに落下する。たちまち沸き出す毒ガスは、バラン・ガスと言う、肌をジワジワと冒してゆく恐怖ガスだ。
  その情報がはいったロバートは、ただちに派遣されている化学者プロフェッサーに対策命令を下す。プロフェッサーは、ミサイル発射を指揮。一発のミサイル が、毒ガス発生地点の上空で爆発させられ、中から中和ガスが放出された。かくて、恐怖のバラン・ガスも、連合軍の超科学の前に無効化されてしまったのであ る。
 ガス対策の成功にロバートは満足し、もはやマリン軍恐れるに足らず、と俄然強気になる。
 さて、マルスの方は、ついに村を旅立つ。これ以上、マルスの気まぐれには付き合いきれないという西森は、エコとともに村に残り、道案内をかって出た郡山がマルスの従者となる。
 そして、残った西森とエコであるが、エコは西森に対して恐るべき話を持ちかける。「マルスさんの持っていた古代剣だけど、実はあれと同一のものが発掘できる古代遺跡が、このマリン国内にあるのよ」
 まさしく、考古学者の西森にとっては、のどから手が出るような情報であり、彼はすぐ、その遺跡を見に行こうとエコをせかす。
  ここで場面展開し、ついにビラードのご登場となる。場所は不明。ビラードは「同志」と呼ぶなぞの男から、マルスの事をいろいろと聞かされている。「同志」 はマルスの事をよく知っていて、彼をうまく味方にすれば、強大な戦力になるとビラードに助言し、ビラードもその話に乗り始めていた。
 そのマルス と郡山はと言えば、砂漠の横断中、巨大な竜巻に出くわしていた。度重なる空爆の結果、異常発生したシロモノである。接近してくる竜巻に対して、マルスは草 なぎの剣で対抗する。剣から発生した突風は、竜巻のエネルギーとぶつかり合い、双方を消滅させる。郡山は、あらためて草なぎの剣の凄さを思い知らされる。
 ともあれ、二人は首都メギドに到着する。二人は、空爆のため、あちこちが破壊されている、この大都市を見て、がく然とする。戦争とは、かくも悲惨なものなのか。
 前進する二人。やがて、二人を待っていた連中が現われる。郡山がパッと明るくなる。彼が連絡を取っていた、取り引き相手だ。
 そいつらは、首都を警備するマリン軍ビラード直属隊と、リーダーはスーツを着た日系アラブ人。
 双方は、郡山のたくみな仲介によって、対面する。
 この日系アラブ人こそは、小野山コンツェルンの兄弟会社である兵器会社「デスヘルメス」の社長・野平だった。俗にいう死の商人である。マリン国に大量に殺人兵器を売った事が国際的に批難され、立場が危うくなった為、今はビラードの元にかくまってもらっていたのだった。
 その彼が、ビラード王の代理人として、マルスに対話を申し出たが、マルスは本人としか取り引きはしないと撥ねつけた。
 現在、ビラード王は身が危険にさらされている為、人前に姿を見せる訳にはいかない。あの偉大な大思想家は、いつ殺されてしまうか分からないのだよ――と、野平は説得を続けるが、マルスは受け付けない。
「もしオレが戦えば、連合軍なんざ三日で充分だ。でも、殺されるのが怖くて、オレとも会えないような奴には従う気はないぜ」そう言って、マルスは、結局、目的も果たさずに、メギドから出て行ってしまった。
 なおも策略を張る野平と郡山は、とりあえず郡山がこのままマルスのお供を続けて、様子をうかがう事になる。
 そして、メギドを出て、またあてどもなく砂漠を歩き出したマルスと郡山は、偶然ながらも西森らのジープに遭遇する事になる。西森は、エコの道案内で、例の古代遺跡を調査に行くところだった。
 その話を知ったマルスは、他にもある「草なぎの剣」のくだりに興味を示し、結局、西森の一行に同行する事にする。
 こうして、再び集まった一同は、砂漠の果てにひそむ、砂に埋もれた謎の遺跡の元にまでやって来る。それは、今まで発見されていない、大家の西森すら知らないシロモノだった。
 なぜ、エコがこんな場所を知っているのか?ひょっとして、エコは今まで一人でひそかに、この遺跡の調査をしていたのでは?――西森が勘ぐるが、とにかく遺跡の中に入ってみる事になる。興味のない郡山一人は、ジープに居残る事になる。
 鬼が出るか、蛇が出るか。謎の遺跡の内部に一行が入ってゆく一方、残った郡山は、砂漠の向こうから、近くに駐留するマリン軍が接近してくるのを目撃して、ギョッとする。
 ついに郡山の元にまでやって来たマリン軍の兵士たちは、郡山を不審者と考えるが、要領のいい郡山は何とか自分が仲間である事を理解させ、兵士たちと和合する。そして、今、遺跡の中にいるマルスが重大人物である事を告げ、以後、同行する事を了解させる。
 さて、遺跡に入った一行の方ではあるが、次々に目にする貴重な資料に、西森はもう大喜びである。マルスは、早く「草なぎの剣」の模造品を見せろ、とエコをせかす。
 そして、ついに一行がやって来た部屋の壁に、並べて掛けてあった古代剣は――まさしく、草なぎの剣と同一のものだった!!
 なぜ、日本固有のはずの「草なぎの剣」、それも唯一のはずの神器がこんな所に?マルスは動揺する。
 しかし、その時、遺跡がグラグラと揺れ出した。地震ではない。連合軍の空襲である。マリンスキー中尉ひきいる戦闘機部隊が、近くにいるマリン軍を見つけたので、いきなり攻撃してきたのだ。空からは、貴重な遺跡が見えなかったので、ハデに空爆を開始してきたのである。
  連合軍でも特に腕の立つマリンスキーの部隊のハイテク戦闘機の前には、マリン軍はあえなく壊滅してしまい、郡山一人がかろうじて遠くへ逃げ出す。そして、 遺跡の方は、一行を内部に閉じ込めたまま、ガラガラと崩れ出し、全員散り散りとなってしまう。落盤で西森の助手はエジキとなり、エコは行方知れず。遺跡に 未練を残したばかりに重傷を負った西森を担ぎ、マルスはようやく外へ脱出した。
 だが、そこで目にしたのは、無惨に壊滅した駐留マリン軍の地獄図だった。マルスはがく然とし、ついには大声で天に訴える。
「連合軍!てめえらのやり方は、いちいち気に入らないんだよ。てめえらなんかに三日もいらねえ!一日だ!一日で充分だ」
 その様子を影からこっそり見ていた郡山は大喜びし、急いでトランシーバーで野平と連絡をとる。その報告を受け取った野平も満足し、すぐビラード王に伝えると言う。
 こうして、ついにマルスがこの戦争に参入した。
  同時に、ビラード王名義で全面停戦の申し入れがマリン軍から連合軍へと伝えられた。もちろん、そんな一方的な話を連合軍が受けるはずがないし、一体ビラー ドは何を企んでいるのか。ひょっとしてビラード死亡のウワサも流れたが、とりあえずロバートは一時攻撃を控え、全軍待機して、相手の様子を伺うようにとの 命令を出す。
 しかし、これこそは、マルスが全面的に活動しやすくなるようにと配慮した、ビラードの策略だったのだ!!
 連合軍部隊へ向かってゆくマルスを激励しようと郡山が寄ってくるが、マルスは撥ね除ける。
「死にたくなかったら、オレのそばに近づくな。この先、1キロ周囲のものは全て皆殺しにする!」
  さて、とうとう戦闘を開始したマルスは、手始めに、すぐそばに駐留していた連合軍の一個部隊の中に侵入し、内部からゲリラ活動を展開し、ついには壊滅させ てしまう。最新兵器の数々を備えていながらも、部隊はマルスにまるで歯が立たなかったのだ。もちろん、マルスのゲリラ作戦勝ちだった事もある。
 この事は、すぐ本部キャンプのロバートのもとにも通報される。マルスの仕業とはまるで信じられないロバートは、すぐにマリン軍と反撃と判断し、至急援軍の派遣を指示する。
  かくて、連合軍本部向けて前進するマルスと、それを迎え撃つ連合軍大部隊の全面衝突となる。まさか、敵がマルス一人とは考えられない連合軍部隊は油断しつ つも、ロバートの命令通りにマルスに攻撃を仕掛けるが、瞬く間に戦況は逆転され、戦車も戦闘機もモノともしないマルスによって、手ひどい被害を受け出す。
 その状況を無線で報告され、がく然としつつも、ロバートはまだマルスの強さが信じられない。かの老参謀だけは納得しており、ロバートにこう忠告する。「もし、相手がマルスと草なぎの剣ならば、わしなら取る道は一つ。全軍を撤退させるね」
  しかし、なおも戦況を把握していないロバートは、さらなる援軍を次々にマルス打倒のために送り込んでゆく。その中で、マリンスキーの戦闘機編隊だけは、戦 列を離れ、なぜかメギド向けて飛んでいたが、いまや壊滅の危機に瀕していた連合軍としては、それを呼び止めているどころではなかった。
 かくて、マルスの予告通り、連合軍の全軍はほぼ半日足らずで戦闘不能状態にまでズタズタにされてしまった。途中、すでにマルスと戦闘経験のあるリースも復讐戦とばかりに出動し、マルスの裏をかこうとしたのだが、やはり力及ばず散っていった。
 ついにマルスは連合軍本部キャンプの目前にまでやって来ていた。彼の通り道は、ガレキの山と化していた。
  ここまで追い込まれて、ようやく事態を理解したロバートは、慌てて脱出ヘリの元へ向かおうとしたが、それを押し留まらせた者がいた。かの派遣化学者プロ フェッサーである。彼は、最強のマルスとお手合わせできる事を喜び、自分の最新化学兵器の実験台にしてくれるとうそぶく。
 プロフェッサーは、目前にいるマルスに対して、毒液ミサイルや粘着弾などの化学兵器で次々に攻撃を仕掛けるが、草なぎの剣のパワーはそれらをもはね返し、マルスの機転も加わって、ついにマルスはプロフェッサーを打倒する。
 その頃、陥落目前の本部から逃亡を目論む下級兵たちを脱出ヘリの方へ導いている謎の少女がいた。彼女こそは、古代遺跡の中で行方不明になったはずのエコだった。
 ついに頼りの綱のプロフェッサーすらも失ってしまったロバートは、慌てて脱出ヘリの元へ向かうが、ヘリはすでに逃亡兵たちに強奪され、飛び立とうとしているところだった。ロバートは、がく然とする。
 そして、モヌケの殻となった連合軍本部の中枢をズタズタに破壊するマルスは、上空を逃げてゆく脱出ヘリを目撃する。と思いきや、突如飛んできたミサイルが、そのヘリを爆撃した!
 ハッとするマルスだが、すぐに遠くの方をジープで逃げているロバートを発見し、ヘリはオトリだった事を悟る。慌ててジープを走り追うマルスと、ロバートの間の追っかけっことなる。
 執念で追い続けるマルスは、ついにロバートのジープを砂漠の果てに追いつめるが、怯えるロバートに迫るマルスを制止する者がいた。エコである!
「おバカさん!まだ分からないの?あなたは、ビラードに利用されただけなのよ」と、エコは言う。
 そうなのだ。先ほどヘリを破壊したミサイルも、まだ壊滅していなかったマリン軍の発射したものだったのだ。この展開を読んでいたエコは、あえて司令官ロバートの命を救う為に、わざとヘリを逃亡兵たちに盗ませたのである。
 それだけじゃない。マルスが邪魔な連合軍を壊滅させてくれた事を知ったビラードは、調子に乗り、さっそく全マリン軍に戦闘再開命令を下し、今マリン軍のミサイルが敵味方の区別もなく無差別攻撃をおっ始めていると言う。やはり、ビラードも意地汚い戦争の犬だったのだ。
 そんな真相を知らされたマルスはうなだれてしまい、宿敵ロバートをここまで追いつめたにも関わらず、何もせずに立ち去ってしまう。
 エコも、怯えるロバートに対して、「あなたも、早く連合軍本部に戻った方がいいはずよ」と謎めいた忠告をして、去ってゆく。
  さて、ここで、メギドへ飛んだマリンスキーの戦闘機編隊の話となる。マリンスキーは、今回のマルスの一件は明らかに裏でビラードが糸を引いているものと睨 んでおり、その黒幕を直接たたいてやろうというハラだったのだ。メギドにまでやって来た彼らは、ビラードの隠れ家を求め、すでに空爆でガレキ化したビラー ドの豪邸にさらに攻撃を加える。その結果、ついに恐ろしい事実を発見した。
 彼らは、豪邸の下に見える地下シェルター要塞の入り口を見つけ出し、ビラードはまさにその下に避難していたらしいのだ。
 マリンスキーが、その事を慌てて無線で報告しようとしたのも束の間、彼らの戦闘機はビラードの地下要塞から発射されたミサイルによって次々に撃ち落とされてゆき、ついには全滅してしまう。
 そして、その頃、マルスはと言うと、マリン国の国境に立ち、あちこちの荒廃した光景を眺めながら、一つの決意を固めていた。
 メギド向けて前進を始めたマルスは、マリン国辺境の村から敵味方の区別なく強奪を働いている野賊さながらのはぐれマリン軍部隊を壊滅させる。これで、恐れたマリン軍は、いっさいマルスの前から逃げ出した。
 そこから、マルスの新行動は、すぐ地下要塞のビラードの元にも伝わった。ビラードの相談を受けた「同志」が言う。「絶対、マルスをここに入れてはいけません。防衛手段は、それだけですね。もっとも、それがムリだった時は、私が手を下しましょう」
 やがて、マルスは廃墟のごときメギドにやって来た。カモフラージュの豪邸が無くなり、出入り口の剥き出しになったビラードの地下要塞の上で、マルスは大声で訴える。
「おい、ビラード!よく、聞け。10数えるうちに、地上に出てくるんだ。もし出てこなければ、30分でお前らを全滅させてやる!」
 当然ビラードは現われず、マルスは攻撃を開始する。彼は、地面に草なぎの剣を突き刺し、全エネルギーを集中させると、耐核兵器製の地下要塞の天井を破壊し、その中へ侵入した。
 廊下に仕掛けられた機械仕掛けのトラップを次々に突破してゆくマルスは、ついに司令室の前にまでやって来る。
 入るや否や、中では、ビラードではない男がマルスを迎えた。
「久しぶりだね。私の声に覚えはないかね」と、その男が言い、マルスはハッと思い出した。
 彼こそは、前に、海のど真ん中で戦った、脱走ソ連潜水艦のリーダー、ゴーシュ!あの時は潜水服で身を包んでいた為、すぐには分からなかったのだ。彼こそは、ビラードに「同志」と呼ばれる参謀の正体だったのである。
 ゴーシュは、元々、潜水艦で軍事国マリン国に亡命する予定だったのであり、マルスとの戦いで潜水艦が沈没後、一人だけ脱出ポッドでここにまで逃げ延びてきたのである。
 いきり立つマルスの気を静めさせ、ゴーシュはマルスの道案内をする。まず、ゴーシュはマルスに、この基地内にある核ミサイル発射台を紹介する。それは、極秘に作られたものであり、いつでも発射可能なビラードの切り札なのだと言う。
 そのビラードに早く会わせろとせかすマルスに対し、まずゴーシュはマルスへ忠誠を求める。その要求を蹴り、自らビラードを探し出してやるとうそぶくマルスは、先にゴーシュのトドメを刺してやろうと後を追うが、それはヤブヘビとなり、ゴーシュのワナにはまってしまう。
  光と騒音、悪臭と強風に包まれた拷問ルームの中に誘い込まれたマルスは五感を封じられて、ゴーシュの攻撃に苦戦するが、草なぎの剣の並みならぬパワーでか らくも危機を脱し、ついに宿敵ゴーシュを打倒する。しかし、瀕死のゴーシュは、ビラードがすでに脱出カーの発射口に逃げ去っている事を告げ、あざ笑いなが ら息絶える。
 すぐに、その脱出口へと向かうマルスだが、そこで彼は、まだ脱出カーが置き去りなのを目撃し、そばに潜んでいた敵将ビラードの姿を目ざとく見つけ出す。
 ビラードも、マルスがここまでやって来る事を予測し、わざとここで待っていたのだ。なぜか余裕の彼は、再度マルスに勧告する。
「なぜ、わしを殺そうとするのかね。君は、ともに連合軍と戦ってくれたはずだろう」
「それは、てめえのやり方が気に入らねえからだ。自分の欲望の為に、他人を利用し、人を殺すような奴は絶対に許せねえ」
「君は、まだまだ甘いよ。そもそも、人間とはそういう生き物なのだ。もし、わしの事を悪だと思いたければ、それでもよい。しかし、たとえ、わしを殺したとしても、君の前には必ずや、第二、第三のわしが現われるはずだ」
  そして、ビラードは、もともと脱出する気などは無かったと告げる。彼にとって、このマリン国は離れられない愛する故郷だからだ。続いて、彼は、マルスの目 の前で、脱出口を爆破して塞いでしまい、このままマルスも道連れにして、ここで核ミサイルを全て爆発させて、心中する、と宣言する。すでに毒を飲んでいた ビラードの体が、先にガクリと倒れる。
 彼は、この地下要塞を自分の巨大な墓場にするつもりなのだ。
 核ミサイルの引火が始まり、要塞内のあちこちが火を噴き、崩れ出す中、マルスは急いで脱出する為に走り出す。
  さて、その頃、郡山は中東の各地をさまいながら、その被害の凄まじさをウキウキしながらチェックしていた。そこに、空より「デスヘルメス」の社長・野平の 乗ったヘリコプターが降りてくる。マリン国でも連合軍でもない、新しい取り引き相手が見つかった野平は、陥落寸前のビラードに早々に見切りをつけて、こう して逃げてきたのだ。郡山も本社と連絡をとる為、とりあえず野平のヘリに乗っけてもらう事にする。しかし、死の商人・野平の新しい取り引き相手とは?
  そして、マリン国の辺境を、ビラード死亡のウワサを聞きつけ、慌てて逃げ出しているマリン軍の逃亡兵たちがいたが、彼らは自分たちのいる方向――メギド向 けて前進してくる大量の軍隊を目撃して、がく然とする。その軍隊は、付けている国旗から見て、中立だったはずのアラブ連合軍だった。
 さらに、連 合軍本部キャンプに戻ってきていたロバートも、次々に入ってくる予期せぬ情報に頭を混乱させていた。ビラード暗殺されるの未確認情報にはじまり、あのまと まりの悪いアラブ軍がいきなり集結し、なぜかマリン国に攻めていったという謎の事態、その上、この戦争に絶対勝利しなければイスラエル軍も出動させるとい うイスラエルの理由不明の通告、そして間もなく、アメリカ大統領よりの極秘指令を持った使者がここに到着すると言う。
 そのやって来た使者は、ロバートに対し、再度、連合軍をこの地に結成させるので、その指揮を執れと伝言をする。しかし、その敵というのは、マリン軍ではなく、なんとマルス!彼一人の為に、アラブ軍もイスラエルも大騒ぎし、連合軍による追撃も必要だと言うのか?
 そして、使者によるともう一人、指名手配者がいると言う。その顔写真を見て、ロバートはがく然とする。そのブラックリストの人物とは、あの謎の少女・エコであった!!
 さて、ビラードの地下要塞が爆発し、大地が激震している中、かろうじて脱出に成功したマルスが、一人地上に顔を出していた。さすがに対核製の要塞の壁は、地上の外気への放射能漏れを防いでいて、外は無事だった。
 しかし、別の点で、マルスは顔をしかめさせる羽目になっていた。周囲一帯を、やって来た凄まじい人数のアラブ軍部隊が取り囲んでおり、その数はさらに増えんとしていたのだ。目的は、明らかにマルス一人らしかった。
 マルスを中心とし、再度、一対大軍隊の大戦争が始まろうとしていた。戦わずして、マルスに逃げ道はない。
「この大げさな野郎どもめ!いくらでも相手をしてやらあ!」
 マルスは、切り札・草なぎの剣を振りかざして、大軍隊の方へと走り向かってゆく。


神、大いなる戦争のため、世界中の王を一つの地に集められん。その地を「メギドの丘」と言いし。
    ――――――「黙示録」16の16