笑う黙示録

第3話「うちの影子ちゃんは無敵です」

 

実は、この作品こそ「秘密美少女ドクガール」の、もう一つの元ネタだったりします。(!)と言いますか、「幻の少女 影子」(原 「ドクガール」)のパロディのつもりで書いたのが本作で、冗談のはずが、いつの間にか、きちんとしたストーリーにまとまってしまったのが、「秘密美少女ド クガール」だったのです。「ドクガール」と言う、笑えるネーミングも、そもそも、この作品でギャグとして命名したものでした。
本作の初出は、パソコン通信の会議室で、ツリー形式をとことん意識したドタバタ連作小説だったのですが、「ノストラダムスの人類滅亡予言」ネタ(本作公開 が1999年)がまずかったのか、発表当時、全話通して、どえらい評判が悪かったです。(苦笑)全5話で、残りの4話は、ここには転載しませんので、読み たい方は、どうぞ、パソコン通信のニフティサーブ内の過去ログを探してみて下さい。

 

         1 火金は地獄だ!

「ぎょえ〜っ!<恐怖の大王>の正体は、日食だってぇ?」と、球異が、話が始まるなり、いきなり、声を張り上げて、そう言った。
「実は、そうなんだ。中世フランス語では、日食の事を、<恐怖の大王>と呼んでいたらしいんだね」と、オレは答えた。
 オレの名は、マルス。対<恐怖の大王>組織のリーダーだ。
 そもそも、今、オレは、ノストラダムスの話をする気なぞは、さらさら無かった。
 本当は、相棒の球異の野郎が、二週間前に貸した5千円を、なかなか返してくれないものだから、いい加減アタマにきてしまい、ねじ伏せてでも借金を取り戻 そうと、球異の探偵事務所にと殴り込んでいったのである。そして、お金の返済を催促したところ、球異の奴は、いきなり、冒頭のセリフを口にして、話をはぐ らかしたのだった。
 ノストラダムスの話になると、つい、夢中になってしまい、それまでのストーリーの流れを無視してしまうのが、オレの悪いクセでもあった。
 こうなると、オレは、ひたすら、ノストラダムスの説明に集中しだした。
「しかも、タチが悪いと言うか、何と言うか、今年の8月、本当に今世紀最後の皆既日食が、中東から東南アジアの広い範囲で見れたりする。その為、占星術系 の昨今のノストラダムス研究家は、<恐怖の大王>の正体は日食と見て、まず間違いない、と考えているようなんだ。そもそもね、ノストラダムス自身が占星術 には精通していて、彼の予言詩のあちこちに、星や星座の名前が出てくるんだよ」
 ここで、オレは、一度、説明を区切ってみた。
 ノリのいい球異の事だから、話の内容が理解できなくても、適当に頷いてくれると思ったからだ。しかし、球異の奴は、なかなか、ウンウンともクンクンとも 言ってくれなかった。3分ほど待ってみたが、依然、球異の反応が無かったので、オレは、やむを得ず、話を続ける事にした。
「ところが、この説に対しては、大きな反論も存在するんだな。それは、なんと、<恐怖の大王>と言う名称自体が間違いだ、と言うものなんだ」
 オレは、ここで、再び、球異の驚きの反応を期待して、言葉を切ってみたのだが、やはり、球異は何も言ってはくれなかった。
「おい、球異、聞きたいだろう?おしえてやるよ。そもそも、<恐怖の大王>に相当するフランス語の原文は、grand Roy d'effrayeur と言うものなのだが、実は、この予言詩の<恐怖>と訳されている部分 d'effrayeur だが、原書のもっとも古い版、ベノワ・リゴー版とかを見てみると、コンマがついておらず、deffraieur となっているんだ。一見、大差が無いようにも思われるけど、たったこれだけの違いで、日本語の<大>と<犬>ぐらいの意味の違いがあるんだぜ。聞いて、驚けよ。古い版では、この部分は<恐怖の大王>ではなく<支払人の大王>と読めるのさ」
 読者の皆さんは、ここで、「何じゃ、そりゃ?」と驚いてくれたと思うのだが、肝心の球異は、やはり、反応を示してくれなかった。こうなれば、オレも、ちょっと、意地になってきた。
「とは言えね、<支払人の大王>じゃ、まるで意味が通じない。そこで、古い版が誤植だったと言う可能性も、少なからず考えられるので、近年の版では、ほと んど躊躇なく、d'effrayeur と訳されるようになっている。しかし、世の中には、もっと凄い<恐怖の大王>の正体を考えだす奴もいるもんでね。オレが一番仰天したのは、日本のノストラ ダムス研究家、加治木義博氏の唱えた真説だね。何と、彼の主張では、<恐怖の大王>とは国連のデクエヤル事務総長だと言うんだ」
 言い切った時、オレは、今度こそ、球異の驚きの声が聞けると確信したのだが、予想に反し、球異は何も言いはしなかった。ひょっとして、寝てるんじゃないのか、と思って、球異の顔をじっとにらんでみたが、目は開いているようである。
 多少、不愉快な気持ちにはなってきたが、ノストラダムスの話だけは、途中で中断したくはなかったので、オレは続きを喋る事にした。
「加治木氏の場合、d'effrayeur を一般名詞とは見なさず、固有名詞と考えて、直訳してみせたのさ。一見、強引にも思えるが、ノストラダムスの予言詩解釈の世界においては、mont Gaulsier(直訳すると、ゴールシェ山)を気球の発明者モンゴルフィエと見なすのが通説になっているぐらいだから、それほど、ぶっとんでいる仮説で もないのかもしれないけどね。(参考文献/「真説・ノストラダムスの大予言」加治木義博・著/KKロングセラーズ・刊)」
 あんまりにも反応が無さ過ぎるので、オレは、ちょっと、球異の目の前で、手を上下に振ってみせた。
「おい、球異、どうしたんだよ。今日は、やけに元気が無いな」と、オレは、球異に優しく声を掛けてみた。
「いやあ、マルス、ごめんよ。実は、スカイパーフェクトテレビに入会したんだけどさ、火曜と金曜は、見たい特撮番組が集中して放送される為、テレビ見るだ けで、気力を使い果たしちゃうんだ。でね、火曜は『メガロマン』(昭54)がはいっているんだけど、この名前の意味が、どうしても分からない。目がドーン と出ているからメガロマンなのかと思ったんだけど、それなら、メガドーンマンのはずだろう。だとしたら、明らかに名前の付け間違いだから、放送局のキッズ ステーションにおしえてやろうかと思ったんだけど、むしろ、製作元の東宝におしえてあげた方が感謝されるかな、と思って、さっきから、ずっと、その事を考 えていたんだ。(作者注・ラテン語で「メガロ」とは「大きい」と言う意味なので、単に「大きい男」と言う意味なのではないのでしょうか)」球異は、腕組み し、真剣な顔で言った。
「あ、あのな・・」さすがのオレも、これには、がっくりと力が抜けていまい、球異をぶん殴る気が失せてしまった。
 その時、例によって、事務所のドアを勢いよく開けて、令子が入って来た。
「マルス。大変よ!」と、彼女は叫んだ。
 令子は、やはり、どピンクのテニスウェアを身につけていたのだが、その事を指摘しても、恐らく、見当違いの答えが返ってくるであろうと思われたので、オレは、あえて、それについて触れるのは止める事にした。
 しかし、今回は、いつもと違う点があり、令子の後ろについて、かの所田も現れ、この事務所の中へと、すまし顔で入ってきた。
 そして、所田の姿を見た途端、今までボッとしていた球異の形相が、みるみる、変わっていった。
「こっ、こらあ!何たる失態!おい!令子たん!こっちに来て、そこに座りなさい!」と、興奮した球異が、令子へと命令した。
 少し、むかついた表情になった令子ではあったが、訳が分からぬ事もあって、とりあえずは、球異の前にある椅子にと腰掛けた。
「令子たん!困るよ!君は、おいらの恋人なんだぞ!なんで、おいらの気持ちが分からないんだ!おいらはね、所田を最初の<発言>に出させない事だけを、無 二の楽しみにしていたんだぞ。それなのに、なんで、所田の奴を連れてきちゃったんだよ。これで、所田の第一発言未登場記録がストップしちゃったじゃない か。さあ、この不祥事を謝りなさい。ごめんなさい、と言って、頭を床に擦り付けて、土下座をするんだ」球異が、偉そうに令子を叱りつけた。
 無言の令子は、携帯用アイスラッガーを取り出すと、それを球異へと命中させた。
「あ、令子!それ、いいな。高かったんじゃないのか?」と、オレ。
「いいえ。免税店だったから、そうでもなかったわ」サラリと令子が答える。
「ねえ、皆、ケンカは止めてよ。どうせ、原因はつまらない事なんだろう」と、球異の話を聞いていなかったのか、ニコニコ顔の所田が言った。
「別に、あたしが、誘って、連れてきた訳じゃないわ。こいつが、勝手についてきちゃっただけよ」令子が、冷たく、言い放った。
「まあ、令子。機嫌を直してくれよ。ここに来たのは、また何か、情報を手に入れたからなんだろう。今度は、何が分かったんだい?」いちおう、オレは主役なので、ここらで、話を元に戻す事とした。
「そうそう、大変なのよ!」と、令子はオレの方に顔を向けて、訴えた。「悪の科学秘密結社バラバラ十字団が、世界征服の為、暗躍を始めたのよ」
「バラバラ十字団だって?まさか!連中は、確か、大幹部のドクターデスをはじめ、全員、滅び去ったはずだぞ」オレは言い返した。
「ところが、ドクターデスは、まだ死んではいなかったのよ。奴は、弱体化したバラバラ十字団を強化する為、アフリカに潜む恐怖の秘密結社ベルダム団と結託して、なんと、新たな組織を結成したのよ!」
「ちょっと、待った!」と、球異が、いきなり、話に割り込んできた。「令子。その話、間違っちゃいないか?アフリカ出身の秘密結社の名前は、確か、ゲルダ ム団のはずだぞ!だから、悪の組織ショッカーと合併した時、その名前は、ゲルショッカーとなったんだ。でも、ベルダム団だったら、ゲルバラ十字団にならな いじゃないか。絶対、おかしい。ベルダム団とバラバラ十字団が合体したら、その名前は、ゲルバラ十字団じゃなくて・・」
 令子が涙目になっているのに、オレは気が付いた。
「おい、おい、球異。まあ、そのぐらいで、止めておけよ。令子は、敵組織の名前のチンプなダジャレを言うのを楽しみにしているんだから、そんなにしつこく 聞いたりしたら、先にネタばれしちゃうだろう。・・なあ、令子。それで、ベルバラ十字団・・あ、違った、バラバラ十字団は、どんな名前に変わったんだ い?」オレは、笑いながら、令子に尋ねた。
「知らない!もう、あなたたちなんか嫌い!」完全にヘソを曲げた令子は、プイッとオレたちに背を向けた。
「全く、マルスも球異も、駄目だなあ。繊細な女心ぐらい、分かってあげなくちゃ」と、ここぞとばかりに、所田が話に加わってきた。「令子ちゃん。ボクは、 ぜんぜん、見当がつかないなあ。ベルスター(演・早川絵美)とバラバラマン(役・斉藤晴彦)が結婚して、どんな素晴らしいヒーローが生まれたんだい?」
 令子は、携帯用スペシウム光線を、真っ正面から、所田に浴びせた。どうやら、話をきちんと聞いていなかった所田の事が、一番、アタマにきたらしい。
「もう、嫌んなっちゃう!こうなりゃ、勝手に話を進めるからね!チャチャ入れないでよ!新組織ベルバラ十字団の大幹部におさまったドクターデスは、なん と、隕石をコントロールする電子頭脳を発明して、隕石を世界中に降らし、いっきょに世界を壊滅させる作戦にと乗りだしたのよ。しかも、そればかりか、仮面 ライダーを育てた名トレーナーとして知られる立花藤兵衛を誘拐して、自分のコーチにと迎え、戦力強化を図っているのよ。はい、説明終り!あとは、マルス、 任せたわ!」ふてくされた令子が、早口でいっきに言い切った。
「オッケー。じゃあ、次は、オレがあぐらかいて、考える番だな」と、オレは言った。
「さあ、ぶっ殺しにいくぞお!」結論を聞く前から、球異は、早くも、乗る気になっている。
「う〜む。牛乳かけチャーハンとキムチ入りチョコでは、どちらがおいしいのだろう?」と、所田がとんちんかんな事を言う。
 あぐらをかいたオレは、すぐに立ち上がった。
「よーし!助っ人を雇うぞ!」と、オレは叫んだ。
「え〜〜っ!いつもと、言う事が違う!」球異たちが、いっせいに驚いた。
「何だよ。オレの意見が、そんなに意外だったか?」と、オレ。
「いえ・・ぶっ殺しにはいかないの?」と、代表して、球異が尋ねてきた。
「もちろん、ぶっ殺しにはいくさ。しかし、今度の相手は、かなりの強敵だ。そこで、対抗して、オレたちも、仲間を一人増やそうと思う。実は、これからスカ ウトしにいく彼女は、たった一人で、旧バラバラ十字団を壊滅まで追いやった功労者なんだぜ」オレは言った。
「え?彼女?」目ざとく、令子が反応した。
「そう。オレが雇おうと思うのは、女の子なんだ。影子ちゃんと言って、もの凄い可愛い子ちゃんだぜ。しかし、その正義の味方としての実力は、超一流なんだ」オレは説明した。
「その話、のった!賛成、賛成、アルカリ性!」女の子と聞いただけで、球異の奴は、満面の笑みとなって、うかれ踊り出した。
 よく見ると、所田の奴も、顔を真っ赤にして、デレデレしている。
「駄目よ!絶対にダメ!」と、令子が大声で叫んだ。「だって、この小説のヒロインは、あたしなのよ!女性キャラが、一人増えたら、あたし、影が薄くなっ ちゃうじゃないの!しかも、ブスじゃなくて、美少女なんでしょ!そんなの、絶対、気に入らない!この話、あたし、絶対に反対だからね!」
「まあ、令子たん、いいじゃないの。東映のスーパー戦隊シリーズだって、途中からメンバーの二人が女性になった事だし、おいらたちも、女の子が一人増えれば、ちょうど5人戦隊になれる」と、笑顔の球異が言った。
「そう、そう。それがダメなら、初代ヒロインは今回限りで引退、と言う展開でも・・」と、珍しく、所田が話に添った発言を口にした。
 怒り狂った令子は、携帯用スカイドンを振り回して(危険ですので、ウルトラマンはマネしないで下さい)、事務所の中をぐちゃぐちゃにしてしまった。
 スカイドンの直撃を受けて、球異と所田が床に沈んだ一方、間一髪で蛍光灯の鎖にとぶら下がり、難を逃れたオレは、令子をなだめながら、こう言った。
「まあ、令子。今回は、タイトルで、すでに影子の名前が出ちゃってるから、仕方ないんだよ。悪いが、あきらめてくれ。影子の奴は、この夕日ビルでエレベーターガールをやっている。エレベーターがある区画は、次の<発言>だから、これから、皆で迎えに行こう」

         2 スーパーヒロイン登場

 いつになく張り切っている球異と所田、<発言>を移る最中も、まだ不機嫌だった令子を連れて、オレは夕日ビルの正面エレベーターの前へとやって来た。
 このビルは、商用ビルや、ましては、デパートでもないのに、なぜか、エレべーターガールが居て、その彼女こそ、地上最強のスーパーヒロイン、影子が、世を忍んでいる仮の姿なのだ。
 エレべーターは、オレたちの居る階にまでやって来て、ドアが開いた。そこに、紺色の制服を着たエレべーターガール姿の影子が姿を現わした。
 透き通るように白い肌に、大きく奇麗な瞳を持った、小柄な超美少女である。見た目は、中学生か高校生ぐらいにしか見えない。
 彼女が、予想を上回る美少女だったものだから、思ったとおり、球異と所田は有頂天になって、歓喜した。
 さっそく、影子をナンパしようとした球異は、すかさず、令子の携帯用八つ裂き光輪でねじ伏せられてしまった。
「ぼぼぼぼぼぼ・・くくは・・・とっとっとっころだっだでで・・すぅぅぅおおお・ともだ・・っちになななてくださ・・い」体中、真っ赤になった所田は、メチャクチャにどもってしまい、どうも、影子に言葉が通じなかったみたいだ。
「な、な、何よ!あたしの方が、ず〜っと、美人じゃない。スタイルだって、ほら、あたしの方が・・」顔をひきつらせたまま、令子が必死にミエをはった。
「やあ。影子。久しぶりだな」と、オレは、爽やかな笑みを浮かべて、影子に声を掛けた。
「・・あ、あのう。あなたたちは、どちらさまでしょう?エレベーターで、どこまで行かれるつもりで?あっ、ひょっとしたら、天竺まで有り難いお経を取りに行かれると言う、あの御一行では?」困惑した表情の影子が、かわゆらしい声で、オレたちに尋ねた。
「おい、おい。じゃあ、オレは孫悟空かよ」と、オレは苦笑した。
「あら、まあ。それなら、あたしは、あの美人女優しか演じちゃいけないと言う三蔵法師?」令子が、ようやく、明るい笑みを浮かべた。
「だったら、おいらは、女ったらしで、食いしん坊の猪八戒だーい!」と、球異が嬉しそうに、胸を張った。
「それなら、ボクは、知性派妖怪と言われる沙・・」
 所田が言いかけた時、まるでタイミングよく、影子が口をはさんだ。
「あ、ごめんなさい。あなた、マルスね。思い出したわ」
 一人だけ、セリフを最後まで喋らせてもらえなかった所田の目は、潤んでいた。
「本当にゴメンね。エコさ、改造人間にされちゃってから、すっかり、物忘れが激しくなっちゃったのよ」と、エコこと影子が言った。
「改造人間!?」と、令子たち三人が、いっせいに驚いた。
「その通り!影子はね、心無いバラバラ十字団に誘拐され、強制的に改造手術をされてしまった、尊い犠牲者なんだ」オレは説明した。
「そうよ!エコのこの若く美しい体に、悪魔のようなバラバラ十字団は、メスを入れ、注射をして、醜い改造人間にしてしまったのよ」影子も、力を込めて、 言った。「バラバラ十字団からは、なんとか、脱走できたけど、おお!エコはもう、普通の人間には戻れないのよ」
 影子が、無念そうに、エレベーターの壁をドンと叩いた。軽く叩いたように見えたにもかかわらず、壁には大きなへこみが出来てしまった。
「あのう、影子たん。改造人間って事は、やっぱり、変身とかもしちゃうんですか?」目が点になった球異が、恐る恐る、尋ねた。
「まさしく、お前の言う通り。影子は、人類に危機が迫った時、ドクガールに変身して、悪のバラバラ十字団の怪人をやっつけてしまうんだ」と、オレが、代わって、答えた。
「変身した姿、見たい?」と、影子が、いたずらっぽい笑みを浮かべてみせた。
 球異と所田が、犬のようにクンクンと頷いた。
 すると、影子は、いきなり、着ていた服をサッと脱ぎ始めて、スリップだけになってしまった。この思わぬサービスカットに、球異と所田は、再び興奮し、浮かれまくった。
「な、何よ!こんな子、まだまだ、小娘じゃない!色気だったら、やっぱり、あたしの方が、ずっと上よ!」と、対抗意識を燃やす令子が、ひきつりながら、つぶやいた。
 実を言えば、影子の奴は、改造手術を受けてから、すでに25年もたつと言うのに、少しも歳をとっていなかった訳なのだが、果たして、その事を皆にもおしえておくべきなのだろうか。
 そして、彼女が、上着を脱いだのも、単に、変身して、衣服を破きたくなかったからに過ぎなかった。
 突如として、影子の姿が、醜い毒蛾の怪人にとチェンジした。その余りにおぞましすぎる容姿に、間近で見ていた球異と所田は、びっくりしすぎて、ひっくり返った。
「な、何よ!あたしだって、化粧を落とせば・・」言い掛けて、ハッとした令子は、口を押さえた。
「まあ、そう言う訳だ。なかなか、頼りになりそうな奴だろう」と、オレは言った。
「そう言う事。エコさえ居れば、ベルバラ十字団も、生きていたドクターデスも、怖くはないわよ」もう人間体に戻っていた影子が、力を込めて、うそぶいた。
 まだオレは、会いに来た理由を話していなかったような気がするのだが、まあ、意思の疎通が早ければ、その分、話も早く進むので、いいかもしれない。
「人間の自由と平和を守る為、エコは日夜戦い続けるのよ。おのれ、ベルバラ十字団!最後の一人が倒れるまで、戦い抜いてやるわ!」と、さらに影子がセリフを決めた。
「・・ねえねえ、マルス。影子ちゃんってさ、こんなキャラだったっけ?」と、令子がポツンと言った。
「う〜ん。昔、会った時は、こうじゃなかった気もしたんだが・・。どうも、この小説用にデフォルメされてるみたいだな」オレは苦笑いした。
「あっ、そうだ。渡しておくものがあります」
 そう言って、影子は、ロケット型の小さな笛を、オレたちの方へと指しだした。
「なに、これ?ひょっとして、ピンチの時、これを吹いたら、影子たんが駆けつけてくれるの?」あの化け物の正体を見ていながらも、まだデレデレしている球異が言った。
「違います。一回吹けば、ウルトラマンガイアに変身できる我夢くんが、二回吹けば、『悪魔くん』に出てきた怪獣モルゴンが、そして、三回吹けば、なんと、ウルトラセブンを倒したマグマ星人が、やって来てくれます」と、影子。
「いらないわよ、そんなもん!」令子が冷たく言った。
 ともあれ、新戦力と合流した我ら対<恐怖の大王>組織ではあったが、その行く手には、まだまだ波乱が満ちていそうなのであった。

 そして、謎のベルバラ十字団本部では、復活した大幹部ドクターデスが、早くも、オレたちの情報を入手していて、返り討ちにせんと、刃を磨ぎ始めていた。
「何だと!憎き影子め!対<恐怖の大王>組織と手を結んだだと。バーカめ!我がベルバラ十字団には、精鋭の怪人軍団がおるのだ。彼らの前では、貴様なぞ、赤子同様に過ぎないだろう。わっはっはっはっは」ドクターデスは、悪魔の笑いをあげた。
 かくて、ここに、影子とベルバラ十字団の間での戦いの火ぶたが切って落とされたのだ!

         3 1クールヒーロー

  第1回「怪奇!毒グモマン」

毒グモマンが現れて、糸を吐いた。 影子が、必殺の鱗粉殺法でやっつけた。

  第2回「恐怖!吸血コウモリマン」

吸血コウモリマンが空を飛んでいた。 影子が殺人空中パンチで、地面に叩き落とした。

  第3回「戦慄!キングコブラマン」

キングコブラマンがシューシューと音を立てた。 影子は廻し蹴り(パンチラ付き)を決めた。

  第4回「殺人!エイマン」

エイマンが海にいた。 影子はエイと投げ飛ばした。

  第5回「人食い!ハエトリソウマン」

ハエトリソウマンが、地面から顔を出した。 影子はひっこ抜いた。

  第6回「妖艶!バケネコウーマン」

バケネコウーマンがゴミ箱をあさっていた。 影子は、ペットボトルで、裏路地に追い払った。

  第7回「残酷!カメレオンベビー」

カメレオンベビーが見えなかった。 影子はうっかり踏ん付けた。

  第8回「神秘!ユキオトコマン」

雪山からユキオトコマンが降りてきた。 影子に「田舎者!」と言われ、 ユキオトコマンは泣きながら、お山へ帰ってしまった。

  第9回「凶悪!アカトンボーイ」

強敵アカトンボーイが見参した。 影子がピンチに陥った時、影子の姉・ドクガネーサンが現れて、 アカトンボーイをやっつけてくれた。

  第10回「驚異!スガマラブンタマン」

天敵スガマラブンタマンが登場した。 影子は、交霊術で、先祖のドクガニヨンジンを呼び寄せて、 スガマラブンタマンを撃退した。

  第11回「吃驚!オオカミピラニアマン」

ベルバラ十字団の新怪人オオカミピラニアマンが出現した。 通り掛かりの柔道着を着た男(役・藤岡弘)が、 影子のかわりに、オオカミピラニアマンをやっつけてしまった。 影子は、謎の天才科学者・甲里博士の手術をうけ、 スーパー影子にパワーアップした。

  第12回「笑止!ミサイルアルマジロカマキリマン」

ベルバラ十字団の新々怪人ミサイルアルマジロカマキリマンが襲来した。 影子がデコピンをすると、 ミサイルアルマジロカマキリマンは爆散した。

  第13回「ドラキュラノコギリカメトカゲ大佐と再生怪人軍団」

ベルバラ十字団の最強新々々怪人ドラキュラノコギリカメトカゲ大佐が、 今までに敗れた12怪人を引き連れて、出動した。 影子がドンと地面を足で踏むと、 地には大きな裂け目ができ、 怪人たちは、その地面の穴の深淵の中へと、まとめて呑み込まれていった。 ついでに、影子は、 妖怪ぬらりひょんと地底人モーグラーと異次元怪獣ヨンジゲンもやっつけた。

         4 ドクターデスの野望

 こうして、ベルバラ十字団の怪人軍団は、影子の活躍によって・・もとい、オレたち対<恐怖の大王>組織と助っ人の影子の手によって、壊滅したのであった。
 残るは、ベルバラ十字団の大幹部ドクターデスのみである。
 我々は、夕日ビルの屋上に立ち、そこから吊るされ、空に浮いている巨大なアドバルーンを見上げていた。そここそが、なんと、ベルバラ十字団の秘密の総司令本部だったのである。

   <質問> 前回の、球異がフリーワトソンの地底洞窟アジトに探偵事務所を移す、と言う件はどうなったのですか?

  <回答> 実は、ぬらりひょんも、夕日ビルのオーナーに、借家賃を払っていた事が分かった(しかも、広い分、家賃も高い)ので、中止になりました。

「やっぱり、ベルバラ十字団も、家賃を払っているのだろうか」と、アドバルーンを見上げながら、球異がつぶやいた。
「なるほどね。あそこが、秘密要塞だったら、確かに、誰も気が付かないよな。それにしても、令子。お前って、秘密結社のアジトの場所が、よく分かるよな。何か、コツでもあるのか?」と、オレは令子に尋ねた。
「あら。マルスだって、<世界の秘密結社大百科>は、持ってたじゃない?その巻末付録に、全ての秘密結社の本部の電話番号と住所が掲載されていたわよ」と、令子。
「嘘だろう。オレの持ってる<世界の秘密結社大百科>には、巻末付録なんてついていなかったぞ」オレは言い返した。
 すると、球異が話に割り込んできた。
「ああ。マルス、ごめん。実は、出前のラーメン食べてたら、つゆをこぼしちゃってさ、ティシュが切れてたもんだから、お前の<世界の秘密結社大百科>の後 ろのページを破って、ティシュがわりに使わせてもらったんだ。どうせ、住所しか書いてなくて、お前も読まないだろう、と思ってさ。すっかり、言うのを、忘 れてたよ」
 オレは、令子から借りた携帯用ウルトラブレスレッドで、球異を叩きのめした。
「さてと、話を戻すぞ。まずは、どうやって、あのアドバルーン基地へと突入するかだ。所田のトリカブトーは、30センチしか宙に浮かないから、あそこまでは、とうてい届かないぞ」オレは言った。
「それなら、あたしに任せて。今すぐ、携帯用ウルトラホーク1号を呼び寄せるわ」と、すかさず、令子がトランシーバーを取りだした。
「あら、そんなもの使わなくても、大丈夫よ。皆、ちょっとの間、エコにつかまって」影子が、あっさりと、そう言った。
 彼女は、皆の体を抱えると、ピョンとジャンプした。その跳躍は、超人的であり、次の瞬間、我々はアドバルーンの上にと乗っかっていて、目の前には、アドバルーン内に入る秘密ドアも見えた。
「なんか、えらい簡単に事が進むな。まあ、いいや。皆!アジト内に突撃するぞ!」オレが言った。
 皆は「オー!」と声を出し、次々にアドバルーンの中へと入っていった。
 さすがに、アドバルーン基地では、部屋を作るスペースが、あまり取れなかったらしくて、中に乗り込むと、いきなり、そこが大幹部ドクターデスの司令室だった。
 そのスペイン風に装飾された部屋の奥の方で、誘拐した立花藤兵衛を側近として横に立たせて、ドクターデスが幹部の椅子にどっしりと座っていた。
「よく、きたな。宿敵の影子よ」と、余裕を見せるドクターデスが、声を掛けてきた。
「ついに、雌雄を決する時が来たみたいね!覚悟しなさい、ワルワル博士!」と、影子が怒鳴った。
「違う!わしは、ワルワル博士でもプロフェッサーKでもない!もちろん、ドクターフーでもないぞ!ドクターデスだ!間違えるな!」ドクターデスは、取り乱 して、怒った。確かに、ワルワル博士やプロフェッサーKにも似ているので、よけい間違えられるのを気にしているのかもしれない。
「あら、あなた、ドクターデスって、名前でしたっけ?まあ、それでもいいわ」と、影子が、適当な返事をする。
「全く、不愉快な娘だ!なんだ?仲間を連れてきたのか?無能な奴らを、いくら、沢山集めても、わしには勝てんぞ」ドクターデスは、うそぶいた。
「博士!聞いて、驚くんじゃありませんよ。この人たちは、あの有名なだんご3兄弟とクシ姉さんよ!」と、影子が言った。
「おい、おい。そんなに早く、オレたちの名前を忘れるなよ。いくらなんでも、だんごはないだろう」影子たちの話を聞いていたオレは失笑した。
「そうよ。クシ姉さんはひどいわ。せめて、あんこちゃんにしてよ!」ヒロインの座が危うくて、頭が混乱しているのか、令子もとぼけた事を言った。
「だったら、おいらは真ん中の次男だーい」と、球異。
「それなら、ボクはいちばん下の三・・」
「あ、思い出したわ。あなたたち、対<恐怖の大王>組織のマルスと球異と令子さんでしたね。ごめんなさい」所田のセリフをさえぎって、影子が訂正した。
 影子の紹介に自分の名前が抜けている事に気が付いたのか、所田は悲しそうな表情で、指をくわえていた。
「だんご3兄弟だろうと、対<恐怖の大王>組織だろうと関係ないわい。わしは、地上最強の改造人間なのだ。冥土の土産に、お前たちに、わしの正体を見せてあげよう」ドクターデスは、バッと椅子から立ち上がり、背中のマントを頭上に広げた。
 その姿は、次の瞬間、真っ白なイカの怪人に変身した。
「今度は、このイカアクマが相手だ!」と、怪人化したドクターデスが叫んだ。
「そうか。ドクターデスの正体は、イカアクマだったのか」影子がつぶやく。
「まあ、お前も、死に急ぐ事はあるまい。これから、なぜ、わしは、お前を改造人間にしたのか、その理由をおしえてあげる事にしよう」ドクターデスは言った。
「あのう。おいらたちのセリフが、さっきから、全然ないので、しなくていいですよ」と、球異が、横から口をはさんだ。
「じゃかましい!きさまに話してるんじゃない!」ドクターデスは目くじらを立てた。「よいか、影子。この地球は、まもなく滅びるぞ。しかし、たとえ、その ような事になっても、偉大な人類の血は絶やしてはいけないのだ。それゆえ、我がバラバラ十字団は、破滅した世界でも生き残れるようにと、生命力の強い改造 人間を作り続けていたのだ。全ては、愛する人類の為なのだよ。わしは、お前の事を見込んで、改造人間の女王にするつもりだった。そして、わしが王様であ り、我々二人が、破滅後の世界の、改造人間社会の頂点にと立ち、人類復興に貢献する予定だったのだ」
「あら、そんなのダメよ。エコと博士じゃ、歳が釣り合わないもの」と、影子が、どうでもよさそうな点で反論する。
「いや!人類の未来の為ならば、歳の差なぞ克服できる!どうだね、影子。今からでも遅くはない。むざむざと、普通の人間たちと一緒に滅びてしまうのではなく、我々の元に戻ってこないかね。わしと共に、新世界を築くのだ」ドクターデスは言った。
 影子は、ちょっと考え込んだようだった。
「いや、エコは、あなたたちの元には帰らないわ!」と、影子は叫んだ。「だって、エコは、皆の事が好きだもの。皆が死んでしまった世界で、一人だけ生き残 れたとしても、少しも嬉しくなんかはない。それよりも、脳みそまで筋肉で出来ているマルスさん、とことん性格の悪い令子さん、ナンパとふざける事しか眼中 にない球異さん、全く役に立たない所田さんたちと、滅亡の日まで、幸せに生きた方が、ずっと本望だわ」
「おい。ほんとに、そんな奴らと一緒の方がいいのか?」ドクターデスが、さめた口調で、言った。
「こっちがゴメンよ。イカアクマ、この子、やるわ」と、不愉快そうな令子が、ポツンと言った。
「この人たち、滅亡が来ても、全員、生き残れそうな気が・・」奥の方で控えていた立花藤兵衛が、小さくつぶやいた。
「どうやら、会談は決別したようだな。仕方あるまい。お前たちは、皆、わしが始末する。なにしろ、わしは、仮面ライダーを育てあげた立花藤兵衛に特訓してもらったのだ。お前らごとき、ふ抜け連中に負けるはずがない」ドクターデスは高笑いした。
「おっと!残念だったな、ドクターデス。所田!いよいよ、お前の出番だぜ」ドクターデスのセリフのタイミングを見計らって、すかさず、オレは叫んだ。
「よし、きた!立花藤兵衛、こっちに来い!」嬉しそうな所田が、大声で呼び掛けた。
 すると、今まで奥の方にかしこまっていた立花藤兵衛が、スタスタと、所田の元にまで走り逃げてきた。
「な、何だ、何だ?立花藤兵衛は、完全に、わしの子分になったはずだぞ。なぜ、お前の命令なんかを・・」驚いたドクターデスが、口走った。
「バカめ!『仮面ライダー』の立花藤兵衛役を演じて下さった小林昭二さんは、すでに故人であられるのだ。従って、ここにいる立花藤兵衛は、本物ではない。 いつか、立花藤兵衛を誘拐して、自分のコーチにつけようなぞと考える阿呆な悪者が現れるであろうと予想して、オレが5年前から所田に作らせておいたメカ立 花藤兵衛だ。しかも、このメカ立花藤兵衛は、ばっちり、お前の秘密をスパイしてくれたはずだ」オレは、どうだとばかりに解説した。
「お、おのれ〜!」と、ドクターデスがうろたえる。
「おい!メカ立花藤兵衛!ドクターデスの秘密は、入手できたか?」と、所田がメカ立花藤兵衛に尋ねた。
「ご主人様!しっかり、入手したぞ。ドクターデスの正体は、怪人イカアクマだったんだ!」と、メカ立花藤兵衛。
「よし!でかしたぞ。よく探りだしてくれた!」そう言うと、所田は、メカ立花藤兵衛を自分の胸ポケットの中にしまいこんでしまった。
「さあ、分かったか!ドクターデス!きさまの秘密は、この通り、メカ立花藤兵衛があばきだしてしまった。もはや、きさまに勝ち目はない!」オレは、かっこよく、セリフを決めた。
「ふ、ふ、ふざけるな!」と、動揺を隠せぬドクターデスは言い返した。
「おい!マルス!もう、ドクターデスは倒したようなもんだ。最後のトドメは、おいらにやらせてくれよ〜」球異が、いきなり、オレに懇願してきた。
「お前の力じゃムリだと思うが、お前のズッコケ活躍を期待している読者もいるみたいだから、それなら、やってみろ!」と、オレは見せ場をひとまず球異に譲る事にした。
「ふっふっふ。待ってました!」と、球異が、一歩前に歩み出る。
 同時に、壮大なオーケストラ演奏の球異くんマーチ(伊福部昭・作曲予定)が、あたりに響き渡った。球異の奴は、ちょっと、勘違いしているのではなかろうか。
「さあ、ドクターデスめ、やっつけちゃうぞ!これより、令子たんにプレゼントしてもらった携帯用変身セットで、球異さまの大変身だ!名前や形は同じでも、一味違うぞ、球異くんパスワード!」
 球異が大声で叫んだ途端、彼の姿は、**になってしまった。
「あらら?まさか、欠陥品だったのかしら?」と、令子がきょとんとする。
「違うよ。球異の奴、おっちょこちょいだから、パワードと間違えて、パスワードと言っちまったんだ。だから、**の下に見えなくなっちゃったんだよ」オレは言った。
「可哀相な球異。ねえ、マルス。名剣シェーンでぶったぎって、球異を外に出してやる事はできないの?」令子がオレに聞いた。
「さすがに、オレでもムリだね。鍵の言葉でなけりゃ、**の蓋は開かないよ」と、オレがお手上げのかっこうをしてみせる。
「愛しの球異〜。たとえ、役立たずのパスワードになっても、あたしはあなたを削除したりはしないわ」涙目の令子が、**をひしと抱きしめて、言った。
「あら。ちょっと、エコに貸してみて」と、影子が、いきなり、話に割り込んできて、令子の腕から**をもぎ取った。
 影子は、ひょいと**を持ち上げると、軽く床へと叩き付けてみせた。すると、**は簡単に壊れてしまい、中から球異が現れた。
「いや〜、影子ちゃん、ありがとう。今回ばかりは、ダメかと思ったよ」全然、緊迫した様子のない球異が、ニコニコ顔で言った。
「さてと、球異がかなわないとなると、次は、いよいよ、ボクの登場だな。敵がイカアクマなら、こっちも悪魔で対抗だ!魔法陣を書いてやる!」どさくさに紛れて、所田が叫んだ。
 どうせ、オリジナリティーの無い所田の事だから、多分、ここで、前回、球異がやった事と同じギャグをするつもりなのであろう。オレは、時間短縮の為、無言で、所田を床に組み倒した。
「さあ、マルス。今度は、あなたの出番じゃない?この<発言>も長くなってきた事だし、そろそろ、ケリをつけちゃってちょうだい」令子が言った。
「いや。この敵は、なかなかのしたたか者だ。こちらも、秘密兵器の影子に任せる事にするよ」と、オレは答えた。
「マルスさん、ありがとう。それなら、エコも、御期待に添えるように、がんばりまーす」と、影子がオレたちに頭を下げた。
「ふん!影子ごときに、わし自らが手をくだすまでもないわ!我が第一の子分、タコアクマよ、行け!」と、ドクターデスが怒鳴った。
 すると、奥の方の部屋から、改造人間らしき、見事なスキンヘッドの大男<特別出演/役・永山>が飛び出してきた。
「出たわね!ベルバラ十字団の新怪人、タコアタマ!」と、影子が叫ぶ。
「フエ〜ン!影子ちゃん、ひどいよ〜。オレ、タコアタマと言われるの、一番、気にしていたのに!この意地悪〜!」タコアタマ、いや、タコアクマは、そう言って、ワンワン泣き出すと、さっさと、自分が出てきたドアから、奥の部屋へとひっこんでしまった。
「ありゃ、ありゃ」と、ドクターデスは、きょとんとした。
「ありゃ、ありゃ、と思っているのは、こっちの方だよ!楽屋落ちは、もういいから、さっさとお前が戦えよ!」オレはわめいた。
「仕方ないな。では、わしが戦う事としよう。しかし、地上最強の改造人間であるわしに勝てる奴なぞ、いるはずもないわ」ようやく、自ら動く気になったドク ターデスは、ふんぞり返って、影子の前にまで、やって来た。「さあ、影子よ、どこからでも、かかってこい!」
「えい!」と、影子は、ドクターデスの左足を踏ん付けた。
 次の瞬間、ドクターデスは、物凄い叫び声をあげた。
「ぎえええ〜っ!何て事だ。不死身のわしの体の中で、左足の中指の爪の生え際は、唯一の弱点だったのだ。そこを攻められた以上、わしの完敗だ!」
「あら、そうだったの?」傍観者の令子が、ポツンと言った。
「さすが、影子たん!やる〜!」と、訳も分からないくせに、球異が声援を送る。
 よろけ倒れたドクターデスは、虫の息だったにもかかわらず、最後の力を振り絞って、捨てゼリフを吐いた。
「影子よ、これで勝ったと思うなよ。ベルバラ十字団には、まだ、偉大な支配者が生き残っておられるのだ。このお方が、必ずや、我が計画を完遂してくれる事であろう。それでは、さらばだ。ベルバラ十字団ばんざーい!」
 言い切ると、ドクターデスは、完全に息絶え、煙となって、消滅してしまった。
「何ですって!支配者ですって!ベルバラ十字団は、まだ、滅びてはいなかったの?」影子が叫んだ。
「まあ、ドクターデスは大幹部だった訳だから、その上に、真のボスがいたとしても、おかしくはないな」と、オレはつぶやいた。
 その時、次の<発言>である隣の部屋から、怪しい笑い声が聞こえてきた。
「あ!さては、ベルバラ十字団の真のボスね!悪の根源め、正体をお見せ!」力強く言い放つと、すぐさま、影子は隣の部屋へと飛び込んでいった。
 オレや令子たちも、遅れてなるまいと、慌てて、そのあとを追っかけた。

         5 黒幕(アホキャラ)出現

 オレたちが、隣の部屋に突入すると、そこでは、ハデなコスチュームに身を包んだ男女(おっさんとおばさん)が待ち構えていた。
「よく来たな、影子!」と、男の方が、ドスをきかせた声で言った。
「おほほほ。私たちの姿を見て、驚いたかしら」と、女も笑う。
「そ、そういうあなたたちは、安藤三男さんと曽我町子さんね!」影子が、びっくりした素振りで、言い返した。
「ち、違うわい!我々の顔を、よく見ろよ!忘れたのか?」男が、目をとがらせて、怒鳴った。
「ごめんなさい」と、影子は、オロオロと謝った。
 影子が、少し考え込んでいる隙に、またもや、球異が、この変なおばさんの事をナンパしようとしだしたのだが、令子に携帯用カプセル怪獣のカプセルをぶつ けられ、阻止されたのだった。令子のカプセル怪獣の使い方は、間違っているような気もするのだが、目的は果たせたのだから、別にいいのだろうか。
「あ。思い出したわ!あなたたちは、エコの育ての親である、ママ母のひさおおばさんと、その兄の山井博士ね!」影子が、いきなり、叫んだ。
「え?え?じゃあ、こいつらって、影子ちゃんの身内だったの?」きょとんとした所田が、久しぶりにセリフを言った。
「その通り!ベルバラ十字団の真の支配者とは、すなわち、影子よ、お前の義母とその兄だったのじゃあ!」と、ひさおと紹介されたおばさんは言った。
「しかし、正体を明かした以上、今後は、その名で呼ぶではない。これからのわしは、ベルバラ十字団の天才科学者首領、ドクター総統だ!」と、山井なるおっさんが怒鳴った。
「そして、私は、悪の女王、暗黒クィーンよ!」と、ひさおおばさんも叫んだ。
「そのケバケバしいコスチュームと言い、その単純なネーミングと言い、お前ら、もうちょっと、何とかならんのかよ?」オレは、顔をしかめて、やじった。
「うるさーい!我々は、偉大な目的の為には、手段を選ばぬのだ。人類は、今、新たな進化の時を迎えようとしている。弱い、無能な旧人類は、全て、滅び去 れ!そして、大いなる新生命である、我々改造人間が、地球の主導権を握るのだ。それこそが、科学が示唆する、正しき未来!」山井、改めドクター総統は、豪 語した。
「何を、こしゃくな!そんな勝手な言い分、認めてたまるか!」と、オレも言い返した。
「ダメよ!」と、影子が、いきなり、叫んだ。「エコは、たとえ正義の為とは言っても、この人たちとは戦えない!だって、ろくにご飯を食べさせてくれないの に、一日中、働かせる、しかも、お金をくれないような、何もしてくれた事の無い、名ばかりの義母とは言っても、たった一人の育ての親には違いないんですも の。この人たちに背く事なんて、エコには出来ないわ!」
「あ、あの。そんなひどいママ母だったのなら、尚さら、積年の恨みを込めて、今、叩き伏せてしまってやったら?」と、令子がポツンと言った。
「はっはっは。影子よ、分かったか!お前は、我々には逆らえないのだ!さあ、そんなクズどもと仲良くするのは止めて、こちらに来なさい。身内の一人として、優しく迎えてあげよう。これからのお前は、悪の小公女、ブラックお姫だ」と、暗黒クィーン。
「そのネーミング、ちょっとやだな」と、影子が躊躇の態度を見せた。
 その一瞬の間をついて、令子が、影子の耳元にと、何かをささやいた。
「だめー!」と、影子が、大慌てで、叫んだ。「令子さん!そのエコの秘密、絶対、誰にも言っちゃ駄目よ!エコは、やっぱり、マルスたちの味方になる!その代わり、どんな事があっても、エコの秘密だけは、内緒にしておいてよ!」
 のんびりした影子の、思わぬ豹変ぶりに、まわりにいた全員は、思わず、あっけにとられた。その中で、令子だけが、オレたち向けて、ピースサインをしてみせた。
 影子は、オレたちの方へと歩き寄って、ドクター総統たちの方へとキッと顔を向けた。
「ごめんなさいね、おばさま。そう言う事情なの。容赦はしないから、許してね」と、申し訳なさそうに、影子は言った。
「ふん!どうだい、ドクター総統!これで、風向きはオレたちの方に傾いたみたいだな」オレは、敵陣営向けて、怒鳴った。
「おほほほほ。果たして、そうかしら。やはり、影子は、我々には逆らえないのよ。ここにある悪魔のシジルを見よ!これを目にしたバラバラ十字団の改造人間が我々に逆らおうとすると、体に激痛が走るのよ」
 そう言って、暗黒クィーンは、変な絵の描かれたペンダントを、影子の方むけて、さし出した。
「おっと。そんなもの、ちっとも怖くないよ。だったら、影子の目を隠しちまえばいいんだ」オレは、すかさず、自分の両手で、影子の目を覆った。
「マルス、ありがとう」と、影子が、明るい声で、お礼を言う。
「それならば、わしの奏でる悪魔の笛はどうだ?この笛の悪魔のメロディを聞いたバラバラ十字団の改造人間は、全て、わしの言いなりになってしまうのだ」
 そう言って、今度は、ドクター総統が、おかしな格好の縦笛で、奇妙なメロディを吹きだした。
「それなら、今度は、ボクが、影子ちゃんの耳をふさいであげるよ」そう言って、出番の少ない所田が、自分の両手で、影子の耳を覆い隠した。
「所田さん、ありがとう」と、影子が、お礼を言う。
「じゃあ、最後は、おいらが影子たんのおっぱいを守ってあげよう」どさくさに紛れて、球異が影子のバストに触ろうとした。
 すかさず、令子はパワータイプにチェンジして、球異を床にねじ伏せた。まあ、影子に本気でぶん殴られたら、さしもの球異も命が無かったかもしれないので、令子の機転は正しかったのかもしれない。
「さあ。敵も、万策が尽きたみたいだな。よし、影子、やっちまえ!」と、オレは影子にハッパをかけた。
「ごめんね。おばさま、おじさま」と、明るく言いながら、影子は、ドクター総統たちの方へと近づいていった。
 うろたえるドクター総統と暗黒クィーンを、影子がピンと指先だけで弾いた。途端に、二人の体は宙にと浮かび、もの凄い勢いで外壁をぶち破って、アドバルーン基地の外へとふっ飛んでしまった。
「マザコンさま〜!」と言うのが、二人が最後に言い放った言葉だった。
「どうやら、これで、全ては終わったのね」嬉しそうに、影子は言った。
「いや、まだだ。ドクター総統たちが、最後に残した言葉が気になる。もしかしたら、まだ後ろで糸をひいている奴がいるのかもしれない」慎重な口調で、オレは反論した。
「マ、マザコンって、もしかしたら、『どきんちょ!ネムリン』(昭59〜60)の最終回間際(第29話「ママは恋のライバル」)に出てきた、甘いもの好きの妖怪の事では?」と、球異が言う。
「ちょっとぉ!そのネタ、マニアックすぎて、誰も分からないわヨ」と、令子が注意した。
 その時、この部屋の一方にあった壁が、どうやら、隠し扉だったらしくて、ガラガラと、シャッターのように、天井へと吸い込まれていった。
 そして、その奥にある隠し部屋には、巨大なコンピューターが、どっしりと構えていたのだった。
「愚かなる敵対者の諸君、ようこそ、我がシステムルームに。我こそは、世界最大の電子頭脳、マザーコンピューターなり。略してマザコン」と、そのコンピューターは、飯塚昭三氏の声で、オレたちに話し掛けてきた。
「まあ、これが、もっとも無難な展開ね」と、冷めた口調で、令子が言った。
「タンパク質で出来た、愚かな生命体たちよ、よく聞け。かつて、私は、ドクターデスの手によって、製造され、この世に誕生した。しかし、ドクターデスより も遥かに優れた知能とパワーを持つ私は、地球の支配権が、タンパク質の生き物より、我々シリコン生命体に引き継がれるであろう事を確信し、彼の組織を全て 乗っ取ったのだ。あらゆる面で、私より劣る、ベルバラ十字団の改造人間たちは、簡単に我が手中にとおさまった。お前たちも、おとなしく、私の前にひれ伏す るのだ」マザコンは、ドスのきいた声で、しゃあしゃあと、そう言った。
「ようし!こうなったら、ボクがメカマザコンを作って・・」
 そう言い掛けた所田を押し飛ばして、オレはマザコン目がけて、怒鳴り付けた。
「機械の分際で、ナマイキだぞ!生物に優劣などは存在しない!貴様が目指しているのは、ただの破滅への道だ!」
「その通り。私は、地上の全てのタンパク質生物を滅ぼす。かつて、恐竜時代の末期に、巨大隕石が落ちて、地球の90パーセント以上の生命を滅ぼしたと言 う。私は、それを再現する。今度こそ、全ての生物を絶滅させて、悪環境に影響されず、存在し続けれる、我らシリコン生命体だけが、この世界にと君臨するの だ」マザコンは、せせら笑うように、断言した。
「ああ!そう言えば、ドクターデスが、地球に隕石を降らせる計画の為、電子頭脳を作ったと聞いていたけど、こいつの事だったのね。今回は、小ネタがいっぱいありすぎて、その事をずっと忘れていたわ」呑気に、令子が言った。
「おい、令子!のんびり構えている訳にはいかないぞ!こいつを倒さなくては、ノストラダムスの予言が現実化してしまう。いよいよ、オレたち対<恐怖の大王>組織の見せ場みたいだぜ」オレは叫んだ。
「それなら、今度は、あたしに任せて!取り出しましたる新兵器は、携帯用ウルトラキー。惑星の軌道を自在に操作したり、星一つ粉みじんにできる破壊砲にもなるスーパーウェポンよ!」
 そう言って、令子は、金色の大きな鍵を、マザコンの方むけて、構えた。
 オレも、この兵器の威力については、ウルトラの父がデモス星を破壊するのに使っていたのを見た事があったので、令子の勝利を全く疑ってはいなかった。
 ところが、ウルトラキーから発射された破壊線を、マザコンは、あっさり吸収してしまったのだった。よく考えたら、電磁バリヤとかで弾き返された場合、反 射した破壊線を受けて、日本の一つや二つは簡単に沈んでいたはずなので、ある意味じゃ、マザコンの防御法は、すごく良心的だったのかもしれない。
「愚かなり!タンパク質生物たちよ!私の体には、全ての攻撃を自分のエネルギーに変えてしまうRS装置(「Xライダー」参照)がついているのだ。お前たち の持っている武器の性能なぞ、全て、計算済みよ!私を倒せるはずがない。さあ、降伏せよ!」マザコンは、憎々しく、そう言った。
「どうする、マルス?ウルトラキーでも倒せないような敵じゃ、あなたのマルスダイナミックでも叩き切れるはずが無いわ!何か、妙案でもある?」
 うろたえた令子に迫られ、オレは、慌てて、アグラをかいた。アグラをかけば、オレは、凄い名案をひらめく事ができるのだ。
「分かったぞ!影子!マザコンの奴を、ぶっ叩け!」立ち上がるなり、オレは叫んだ。
「はーい!」と、言われるままに、笑顔の影子が、マザコンをポンと押した。
 すると、たちまち、マザコンの回線はショートし、その体のあちこちから火が吹き出して、スクラップさながらになってしまった。
「こ・・この私が敗れるだなんて・・。信じられん。なぜなのだ?」と、停止寸前のマザコンが、うろたえた口調で、つぶやいた。
「おい!マザコン!貴様にも、一つだけ計算し切れなかったものがあったみたいだな。それは、人間の心だ。生き物を愛する気持ちは、時として、冷たい機械な ぞには分からないぐらい、物凄いパワーを発揮するものなのだ!」オレは、勝ち誇って、マザコンへと、正義の心を説いた。
「わ・・たしの敗北・・原因はそ・・れとは違うよ・・うな気がす・・」そこまで言って、マザコンは、完全に機能停止してしまった。
「これで、全ては終わったのね!地には、平和が訪れたのね」影子が、一人で感激しているらしく、涙を流しながら、訴えた。
「まあ、そういう事になるのかな。でも、ちょっと物足りない気もするから、もう一丁、黒幕が登場してもいいかな」と、オレが笑いながら、言った。
「バ、バカ!マルス!そんな事言ったら、ほんとに出てきちゃうよ〜!」と、球異が、慌てて、叫んだ。
 そして、まさしく、そうなったのだった。
 マザコンのあった隠し部屋の空間の一部が、突然、ゆがみだし、そこに、水の入った大きな透明カプセルが、テレポーテーションで出現した。その宙に浮く水 槽カプセルの中には、上半身が魚で、下半身が人間、何となく、被り物くさくて、顔がメイクした潮健児氏そっくりな怪物が鎮座していた。
「あっ!こいつは、人魚よ!名前からは、想像もつかないかもしれないけど、魚と人間のあいのこの化け物よ!」と、令子が叫んだ!
 そんな事、見れば分かる!
「おい!タイミングよく出てきたところを見ると、貴様もベルバラ十字団の黒幕関係者だな。貴様で最後か?それとも、さらに、クトゥルーがらみの親玉でも潜んでるのかい、ダゴンさんよ!」と、オレは、カプセルの怪物目がけて、怒鳴った。
「ダゴンだとぉ?あ、あんな奴と一緒にするな!」と、いきなり、怪物は、怒り狂った。「私はオアンネス。先史生命体の長なり。ダゴンごとき、下等動物と間違えるな!」
 このオアンネスなる怪物、容姿が似ているにもかかわらず、ダゴンの方がメジャーなものだから、どうも、焼きもちを焼いているらしかった。
「聞け!下等動物どもよ。この星は、かつて、二酸化炭素に覆われた、とても美しい惑星だった。その海で、まず、硫化水素やメタンを食料とする私の先祖が生 まれたのだ。私の同族たちは、平和に暮らし続けていた。ところが、ある日、突然、お前たちの共生存在である植物たちが出現したのだ。この植物たちは、恐る べき酸素を撒き散らして、瞬く間に、私の先祖たちを滅ぼし、海の奥底へと追いやってしまった。分かるか?お前たちは、侵略者なのだ!」オアンネスは叫ん だ。
「あの、まだ話は続くんですか?」案の定、話についてこれなくなったらしき球異が、あくびをしながら、口をはさんだ。
「黙って、聞け!地球は、植物と、酸素に適応したお前たち新生物の天下にとなってしまったのだ。そして、この地球を、海も大気も酸素で満ちた、こんな醜い 惑星にとしてしまったのだ。一方、住み家を追いやられ、深海に逃げ込んだ我ら一族は、細々と生き続けていた中、危機的状態より、急激な知能を備えるように なったものも現れ、それが直接の私の先祖となった。いいか。お前たち酸素系生物が高い知能を有するようになったのは、せいぜい数100万年前からだろう が、我が一族は、数10億年前から、霊長生物への進化の階段を昇り始めていたのだ。お前たちなぞとは、レベルが違うのだよ」
「そのあなたたちとベルバラ十字団が、どう関係あると言うの?」令子が尋ねた。
「そもそも、この星の先住権は我々にある。よって、全地を我々に返してもらう。我々の一族は、お前たち人類に巧みに干渉し続け、植物を伐採させたり、二酸 化炭素を撒き散らすなどの破壊工作を行なわせ、地上にまん延する酸素の削減を目論んだのだが、この計画は予想以上に難航した。我々は、滅びゆく種族なので あり、もはや、時間の猶予はないのだ。私は、ベルバラ十字団を結成し、いっきに酸素系動物絶滅の作戦にと乗り出した」
「しかし、お前の切り札である隕石落下計画は、すでに阻止してやったぜ」と、オレが鋭く言ってやった。
「隕石作戦は、下等な酸素系動物の考えた、愚鈍なプランの一つにすぎん」そう言って、オアンネスはせせら笑った。「私は、酸素破壊爆弾を開発した。これ を、全世界の空へと飛ばしておいた。爆発させれば、いっきに地球上の酸素は消滅する。もちろん、酸素に依存する、全ての生物が死滅してしまうのだ。これ で、我が一族は、憧れの太陽が輝く大地にと進出できるようになるのだよ。お前ら下等動物には、こんな凄い兵器は作れまい」
「いえ、芹沢博士も作ってましたよ」と、所田が、よけいなチャチャをいれた。
「ええい!説明は、これでおしまいだ。お前らごときでは、とうてい、私の作戦は妨害できない。指をくわえて、生物が死滅する瞬間を見てるがよい。ただし、影子!貴様だけは、一歩も動くなよ!」オアンネスは怒鳴った。
「あら、エコだけが特別扱いなの?」と、影子がきょとんとする。
「おい!オレには、動くな、と言わないのかよ」と、オレはひがんだ。
「この地上で、私が怖いのは、唯一、影子だけだ。他の奴らなぞ、屁でもないわ。しかし、影子にだけは、この私の無重力カプセルも割られてしまうかもしれな い。もし、カプセルの外の酸素に触れれば、私は死んでしまうのだ。よって、影子、お前だけは絶対に動くな!もし、私の命令に背けば、念波を送って、即座に 酸素破壊爆弾を破裂させ、地上の生命をせん滅させる。しかし、おとなしく、私に従うのならば、わずかな情けとして、ノストラダムスの予言した月まで、全生 物の死刑執行の日は待ってやる事にしよう」オアンネスは言った。
「あら、どうしましょう」と、緊迫感のない声で、影子がささやいた。
「ちくしょう!オアンネスめ!むかつく奴だな!絶対、やっつけてやる!」オレも、怒りに燃えて、怒鳴った。
「そうよ、マルス!あんた、今回は何も活躍してないんでしょう。いよいよ、得意の剣さばきを見せてやったらどうなの?」と、令子が言う。
「バカ!影子じゃなきゃ対抗できそうにない奴を、オレが倒せるはずがないじゃないか!」と、オレは言い返した。
「・・情けないわねぇ」令子は、ため息をついた。
「おい!オアンネス!」と、オレはオアンネスに呼び掛けた。「影子は、息もしちゃいけないのか?」
「・・いや、息ぐらいならしても構わないが」と、オアンネスが答える。
「よし!影子!オアンネス目がけて、思いっきり、息を吹き掛けろ!」オレは叫んだ。
「はーい!」と言って、影子は口をとがらせ、オアンネスの浮遊カプセル向けて、フーッと息を吐き出した。
 次の瞬間、オアンネスのカプセルには、たちまち、大きなヒビが走った。
「ギエッ!まさか!」と、オアンネスがうろたえる。あまりに突然のピンチだった為、奴は慌ててしまい、逃げだす事も、爆弾を破裂させる事もひらめかなかったみたいだった。
 続けて、カプセルはパッカリと二つに割れてしまい、オアンネスは、メタンの水の中から空気のただ中へと飛び出してしまった。同時に、それが彼の最後の瞬間でもあった。
 しかし、オレは、その時、はっきりと見たのだ。死ぬ直前、床に放り出されたそれがニヤリと微笑むのを。

         6 終章・怒れるマルス

 かくて、今回の事件も無事解決し、オレたちは、球異の探偵事務所で、恒例のエピローグを行なう事となった。今回からは、不本意ながら、所田も参加する事にとなってしまった。影子の姿は無かった。
「影子ちゃん、地球の平和はこれで完全に守り抜いたから、今度は全銀河に平和をもたらそうと言って、宇宙へ旅立ってしまったわ」と、令子が言った。
「おお、そうだったのか。なるほど。もしかすると、これで、地球自体も破壊の脅威からは救われたのかもしれないな」オレはつぶやいた。
「あたしもヒロインの座が安泰になって、ホッとしたわ」と、令子。
「ねえ、ねえ。令子たん。一つ気になる事があるんだけど、影子ちゃんの秘密って、一体、何だったの?」球異が会話に混じってきた。
「それは、オレも興味があるな。あの影子に、誰にも知られたくないほどの弱点なんてあったのか?」と、オレも話にひかれた。
「女の子だけの秘密だなんて、気になる〜」と、球異がにやけた。
「あのう、ボクも知りたいです」と、所田も、顔を赤らめた。
「そうねえ。ほんとは、女と女の約束だから喋っちゃいけないんだけど、あたし、影子の事、嫌いだから、皆にもおしえてあげるわ。実はね、影子ちゃんって、片目でウィンクができないのよ」令子は言った。
「え?たったそれだけの事?」と、球異が言い、オレや所田もきょとんとした。
「そう。人それぞれ、意外な事で悩んでいるものなのね」と、令子は言った。
「まあ、いいか。令子がそれを知っていたおかげで、オレたちは、あの強力な影子を敵にまわさなくてすんだ訳なんだしな」と、オレは適当に話をまとめた。
「ボクに言ってくれれば、新開発の片目ウィンク特訓ギブスを貸してあげたのに」と、所田が、まだ話を伸ばしてしまいそうな、よけいな事を言う。
「それにしても、ベルバラ十字団は、恐ろしい組織だったわね」と、令子。「ねえ、マルス。あたし、考えちゃったんだけどさ、結局、誰が一番正しかったのかしら。また、あたしたち人間が生き続ける事を、本当に、正義だと言い切れたのかしら?」
「誰も正しくはないよ」と、オレはぶっきらぼうに言い返した。
「いや、誰か一人ぐらいは正しいのでは?」と、所田が、よけいな口をはさむ。
 オレは、所田を無視して、説明を開始した。
「いいかい。改造人間だのシリコン生命だの非酸素系生物だのと、区別をつけて、どいつが一番強靱な存在なのかを比べあったりする事に、はたして、どんな意義があると思う?そもそも、強いか弱いかなんて、どうでもいい事のはずだ。よく考えてごらん」
「じゃあ、お金をいっぱい持ってるか持ってないかの方が重要だと言うのかな」と、所田がまた、よけいな事を言った。
 さらに、所田を無視して、オレは説明を続けた。
「大体、強い生物を世に残したいと考えているのは、我々自身ではない。遺伝子が考えている事なんだ。全ては、遺伝子の目論みに始まっているのさ。遺伝子 は、自分の存在を残す為、より強い生き物を残そうと、やっきになっている。その途上において、平気で、動物同士を殺し合わせ、敗れた生命たちへの情けは、 何一つもありはしないんだぜ。遺伝子に沿った生存競争の法則で、生き物の是非を考えてみたら、そんな冷たい世界観にとなってしまうんだ」
「そうか。それなら、最後に生き残るのは、温かい生き物なのかな」と、所田が、また、話をよく聞いていないチンプンカンな事を言った。
「悲しい話だが、人間社会にも、この生存競争の理論を、本気で持ち込もうとしている連中がいる。弱者は死んでも仕方がないような事を言い触らし、ひたす ら、強者ばかりを賞賛し、彼ら中心の社会を築こうとしたりする。そんな考え方が、たとえば、他民族を狩る独裁者を生み出したり、殺伐とした生存競争型の近 代社会を生みだしたりしてきたんだ。でも、そんな世界が、ほんとに皆の望んだものだと思うか?よく、考えてみな」
「ボクは、ゴジラやガメラが実際にいる世界がいいな」と、所田。
「オレたちは、遺伝子じゃないんだ。体を構築している物質は、確かに、遺伝子かもしれない。でも、こうして考えたり、笑ったりしているオレの心そのもの は、DNAなんかでは出来ていない。そして、この心の方こそが、オレそのものなのだとは思わないかい。だからこそ、遺伝子中心の考え方なんかは破棄してし まって、もう一度、何が大切なのかを、人はよく考えてみるべきなのかもしれないね」オレは、かっこよく、静かに話を締めくくった。
「そうか。一番大切な事とは何だろう?毎日、健康で、朝、気持ち良く快便できる事だろうか」と、所田が言った。
「うおおおおおおおおーーーーっ!」たまらなくなって、オレはうなった。
「ど、どうしたの?マルス」と、びっくりした所田が、怯えた目でオレの方を見る。
 オレは顔を真っ赤にして、すっくと立ち上がった。そして、そばにあった球異のデスクを頭上にまで持ち上げると、ブンブン振り回してから、所田目がけて、投げつけた。
「てめえ!オレの話を邪魔するなあ!ふざけたチャチャを、途中で入れるんじゃねえ!オレはなあ、冒頭と結末の説明シーンだけは、ギャグを挟まないマジメな 話で締めたいんだよ!それなのに、なんだ、貴様は!貴様のせいで、今回のエピローグはボロボロじゃねえか!貴様なんか、どっか行っちまえ!」オレは、激し く怒鳴った。
「まあ、まあ、マルス。怒らないでくれよ」間一髪、オレの投げたデスクの直撃を逃れた所田は、作り笑いを浮かべて、オレをなだめようとした。
「うるさーい!貴様なんかなあ、さっさと甲里博士の研究室にでも戻って、博士に野菜ラーメンでも作ってやれ!この小説のエピローグには参加するなあ!」そう怒鳴って、今度はオレは、ソファを頭の上でブンブン回したあと、所田の方へと投げつけた。
「でも、そんなもの食べさせたら、博士はおなかを壊しちゃう・・」と、所田の奴は、まだ口答えをする。
「おのれ!まだ、分からんのか!」オレは、今度は、所田そのものをむんずととっ捕まえて、頭上で、ブンブンと振り回した。「いいか!あの球異ですら、冒頭 のノストラダムス解説とエピローグの人間批難のシーンでは、おとなしくしててくれるんだぞ。それが、お前ときたら、何だよ!分からないのかよー!地獄に堕 ちろー!」
 その頃、球異は、スカイパーフェクトテレビで、『チキチキマシン猛レース』を楽しそうに見ていた。令子も、その横に付き添っており、「球異がブラック魔 王なら、あたしはミルクちゃんかしら」と、相変わらず、自分ばっかり、奇麗どころのヒロインを当てはめて、喜んでいた。

 人類絶滅と言われる日まで、あと3ヵ月ちょっと。
 こんなんで、いいんだろうか?

第3話「うちの影子ちゃんは無敵です」終