校 内砂漠

 

本作は、他所で公開している映画用シナリオ「ゼカリヤ!」の 元となった連作小説「恐怖教室」(ただし、未執筆)をマンガ化する目的で、細部を変更し、設定もあらたに書き直したマンガ原作用の簡易小説です。よって、 全体の流れや登場人物は「ゼカリヤ!」や「恐怖教室」と同じなのですが、小道具やキャラの設定などがオリジナルに近くなっています。特に、天才少女と言う 影子の設定は、むしろ、「影の少女rewrite」の影子を彷彿させ、本作こそ「rewrite」のルーツとも言えるのかもしれません。
ここに転載したのは、その第1話分であり、このマンガ「校内砂漠」も連作ものとして、話が続いてゆき、今後は極悪四天王などの宿敵と戦う事になります。(ただし、本作も全話分は未執筆)

 

 登校中の高校生たちが、土手の上を歩いている。
 その中の二人。正一と戸燈。
「おい、おい。今日、うちのクラスに転校生が来るらしいぜ」と、戸燈。
「転校生?よりによって、うちのクラスへか?」正一が訊ね返す。
「ああ」
「もしかして、女の子か?」
「どうも、そうみたいだぜ」
「かわいそうに。きっと、桐生たちの標的にされるぜ」
 その時、そばで咳き込んでみせる男子学生が現われる。正一たちのクラスの委員長、愛校的な法鬼だ。
「君たち、なぜ、そういう方向にばかり、ものを考えるんだ。その転校生を受け入れる為の心構えでもしたら、どうなんだい」法鬼が、説教を始めだす。
「委員長!あ、まずい奴に会っちまった」正一と戸燈は、慌てて走って逃げ出す。

 同じ頃。土手の別の場所。
 スケ番の桐生グループ(桐生、爪田、大場の三人)が歩いている。
「桐生さん、今日、うちのクラスへ新しい転校生がやって来るらしいですぜ」爪田が桐生にささやく。
「女子だったら、いいのにな」
 桐生が、妖しげな笑みを口元に浮かべる。

 登校中の生徒が、どんどん入ってゆく中、第三高校の門を眺めている一人の少女・間野影子。彼女が、噂の転校生なのだ。
「今度は、どんな学校なのかしらね」
 影子は、なぜか、自分のカバン向けて話しかける。
「あら」
 彼女は、ふと足もとに落ちていたものを拾い上げた。この高校の校章だ。はじの方に、血がべったり付いている。まるで、この学校を象徴しているかのよう に。
 影子、首をひねる。

 正一のクラスの朝のホームルーム。
 担任の先生と影子が、前に立っている。
「今日、新しく来た間野影子くんだ」と、先生。
「よろしく」影子がにっこりと微笑み、礼をする。
 それをぼんやりと眺めている正一たち。
 正一の隣の席で、戸燈がハッとして、ぼやいている。
「どっかで聞いた名だぞ。う〜ん、どこかで!」
 そして、桐生たちも満足げに微笑んでいる。
 影子は、明るいムードの少女で、自分の席へと向かう。
ナレーション「その子は、全く普通の女の子に見えた。どこにでもいるような、平凡な少女。この時には、ぜんぜん彼女の正体に気付く事はできなかった」

 昼休みの校庭。
 正一と戸燈が、雑談をしている。
「あの子、どこかで見たような気がしたんだけどな」と、戸燈。
「思い違いじゃないのか」正一が言う。
「オレの情報網を疑うのか?う〜ん、確かに」
 その時、話題の少女・影子が二人のそばへ寄ってくる。
「あのう、同じクラスの生徒でしたよね。すみません、法鬼くんを見かけませんでしたか。学内を案内してくれる約束だったんだけど」と、影子。
「委員長か」正一、わざと嫌味ったらしく、「知らないよ。職員室にでも行ってるんじゃないのか」
「分かりませんか。どうも、すみません」
 影子、仕方なしに去ってゆく。
 その時、戸燈がハッとして叫ぶ。
「お、思い出した!間違いない!あの子は、天才少女の影子だ!」
「なに」正一はきょとんとする。

 一方、法鬼を探して、校内をさまよう影子。
 校舎の裏へ来た時、いきなり桐生一派に取り囲まれる。
「転校生さん。ちょっと、待ちなよ」と、桐生。

 図書室で、古新聞のスクラップブックを眺めている正一と戸燈。
 二人の目は「天才少女・間野影子の記事に釘付けとなっている。
「三歳にして七ヶ国語を駆使し、上級物理学・生物学をマスター。確かに、この子に間違いないよ」戸燈は言う。
「でも、なぜ、それほどの少女がうちのような三流学校へ?」
 正一が言いかけた時、ものすごい泣き叫び声が聞こえてくる。
「い、行ってみよう」
 二人はギョッとして、図書室を出、声の方へ向かう。

 校舎の裏では、桐生たちに囲まれた影子が泣き崩れていた。
 そこへ、野次馬に混ざって、正一と戸燈もやって来て、呆然とする。
 さらには、法鬼が走ってきて、影子の前の盾となる。
「こ、こら!お前たち、転校生に何をしたんだ!」法鬼が桐生たちへ怒鳴る。
「何もしてないよな。なあ」桐生の言葉に、爪田らは楽しげにうなずく。
「うそつけ!間野さん、さあ、何をされたか言うんだ」と、法鬼。
「何もありません」影子は泣き続けるだけ。
「ほら、違うって言ってるだろ。あたいらは行かせてもらうぜ」桐生たちは、笑い顔で去ってゆく。
 法鬼は、憤りながら、それを見送る。

 授業を真剣に聞いている影子。
 それを、まるで獲物を狙っているように監視し続けている桐生たち。
ナレーション「それは、ほんの始まりに過ぎなかった。桐生たちが、あの程度でやめるはずがなかった」

 教室。
「えーっ!あの転校生が天才少女だって!」戸燈の話を聞いた、一人の男子学生が大声を上げる。
 それに他の生徒たちも反応し、教室中がどよめく。
「間違いない。ここに、証拠の新聞記事もあるんだから」と、戸燈。
 そこへ、当のご本人が入ってくる。
 一人の生徒が、慌てて彼女のそばへ歩み寄る。
「ねえ、ねえ!この記事の天才少女って、あなたの事?」
 それを見て、影子が照れ笑いする。
「わあ、懐かしい」
 今度こそ、決定的に教室の中がどよめく。
「でも、昔の事よ」謙遜する影子。

 授業中。黒板に解答を書き綴る影子。
 それを、教室中が注目して見ていて、静まり返っている。
 ただ一人、不服げな桐生一派。

 さて、校長室。
 一人の美人が、校長の前に立ち、何かを要求している。
「でも、君。しかしだね」と、弱り顔の校長。
「あなたは、まだ事態をよく把握していないのです!」美人がきつく言う。「あの子を転入させた事自体が、危機の始まりです。あの子は災いのもとです。きっ と、すぐに悪い出来事が発生するでしょう!今までの例でも、明らかです。それでもいいのですか?」
「じゃあ、どうすればいいと言うのかね」投げやりに、校長。
「私を、倫理の教師として、一時的にでも雇ってください。私が、あの子の事は監視し続けます」美人がニヤリと笑った。

 教室に、情報屋の戸燈が慌てて飛び込んでくる。
「大ニュース!大ニュース!今度、緊急で、倫理の先生が、この学校へやって来るんだって」戸燈が言う。「なぜ、そんな事が突然決定したのか、全くの謎なん だ」
「どんな奴?」と、誰か。
「ものすごい美人なんだって」
 男子生徒らがいっせいに喜ぶ。
 その中で、影子がなぜか不安げな表情となる。

 その美人教師の、正一のクラスにおける、はじめの授業。
「私の名前は間野ひさお。しばらく、この学校で、倫理の教鞭を取らせていただきます」教室の中を歩き回りながら、冷たく美人が言う。「私は、挙動不審な者 に対しては、決して手を抜きませんからね。特に、間野影子さん、あなたには!」
 ひさおが影子を睨みつける。影子は、その視線を避けている。

 放課後。正一と戸燈が、並んで歩いている。
「間野影子と間野ひさお。きっと、どこかで血のつながりがあるに違いないぞ。くそう、どんな関係にあるのか、早く突き止めたいなあ!」戸燈はぼやき続けて いる。
 その時、ずっと目の前を、影子が野良犬と戯れながら歩いているのを発見する。
「おや。問題の影子だぜ」と、正一。
「ほんとだ。天才少女だし、性格も決して悪くない。それなのに、ひさお先生は、なぜ彼女の事をマークするんだろう。分かんないなあ!」戸燈が、大声でわめ く。

 教室に入ってくる正一。
 ふと、隅の方で、影子がグズグズと泣きしゃがみ込んでいるのを見つける。そのそばでは、桐生たちがニヤニヤと笑っている。
ナレーション「桐生たちは、先生や法鬼の目を盗み、陰でひっそりと影子をいじめだしたようだった。しかし、ほとんどのクラスメートはその事に関わろうとし なかった。それは、いつもの事だったからである。影子もまた、なぜかおとなしく、いじめられ続けていた」

 放課後。
 土手の上を、正一が一人、帰り道を歩いている。
 その時。
「待って!」と、後ろから声。
 振り向くと、影子が微笑みながら、走って、やって来る。
「同じクラスの正一くんでしょう。方向、同じなのね。一緒に帰ろう」
「え」きょとんとする正一。
「どうしたの?女の子と一緒に帰るのが、そんなに照れる?」
「い、いや」
 二人は、並んで歩き出す。
「分かんないな」正一が言う。「君はなぜ、いつも、そんなに明るくいられるんだい。まるで、悩み事すら無いみたいに」
「沈み込んだって仕方がないでしょう。人生、楽しく生きなくちゃ」
「それが、天才少女の考え方かい?」
 影子はすまして、こう言う。
「天才だから、考える必要なんかないもんネ」
「桐生たちの態度についてもかい」
「え」
「連中が君の事をいじめるのを、皆は何と呼んでいるのか、知ってるかい」正一が真剣な口調で言う。「美少女狩りだって」
 影子、きょとんとしている。

ナレーション「影子だけじゃない。桐生たちは、今までにも多くの転校生やキレイな子をいじめ続け、登校拒否や転校へ追いやってたのだ。彼女たちは、今まで 同様、影子もいじめ続けた」
 席を立ち、熱弁する法鬼。
ナレーション「その事を前から気にしていた法鬼は、それを何度もホームルームの議題にかけたが、何の発展も見られなかった」
 きょとんと席に座り込んでいる影子。
ナレーション「影子が、あまり乗る気じゃなかったからである」

 公園。
 帰り道で立ち寄った正一と影子が、ベンチに座っている。
 影子が、カバンの中から、水の入ったガラス玉を取り出して、手で弄んでみせる。
「それは?」と、正一。
「マッピー。あたしのペットよ」
「でも、ただの水じゃ」
「生きた水なの。五年前、あたしが作り上げたの。とっても、かわいいのよ」

 休み時間。廊下を歩く正一。
 後ろから、影子が走って、やって来て、正一に追いつく。
「はい、これ!今度のテストのヤマよ!ちゃんと勉強しなくちゃダメよ」影子が正一へノートを手渡す。
「ありがと。さすが、天才少女」
「もう!その言い方、やめて!」その時、影子がハッとする。「じゃあ、またあとで」
 影子、そのまま、怖ず怖ずと走り去ってしまう。
 正一、振り返ってみると、ひさおが歩み寄ってくる。
「確か、正一くんとか言ったわね。あまり、影子のそばには近づくんじゃない」ひさおが冷たく言う。
「なぜです?そんなの、僕の勝手です」と、正一。
「あなたも、きっと、とばっちりを受ける事になるわよ」
「関係ありませんね。ひさお先生、あなたこそ、影子ちゃんと一体どんなつながりがあるんです?」
 ひさお、妖しく微笑んだだけで、歩き去ってしまう。

 校舎の屋上。
 正一と影子が、金網に寄っかかり、景色を眺めている。
「影子ちゃんって、アパートで一人暮らしだったんだね。昨日、戸燈から聞いて、はじめて知ったよ」と、正一。
「違うわ。マッピーと二人暮らしよ」と、影子。
「家族はどうしたの?」
「そんなもの、いないわ。あたしは、いつの日も独りぼっちよ」
「天才は孤独ってわけ?」
「そう。あたしは、どこでも特別扱い。いい形でも、悪い形でも」
 そんな影子の表情に、正一は淋しさを読み取り、ハッとする。
「仕方が無いのよ」影子が、おどけて、笑ってみせた。「それが、社会ってものなんだから。流されるしかないじゃない。流れに逆らったら、閉め出されるだけ だし。でも、いいんだ。たまに、あなたみたいに、本当のあたしの事を分かってくれる人もいる訳だしネ」
 正一、同情の表情。
 風が、とても強い。
ナレーション「そして、運命のあの事件が起こった」

 放課後。
 夜も暮れかけており、学校にはもうほとんど誰もいない。
 正一が一人、廊下を走っている。
「忘れ物、忘れ物」と、つぶやいている。
 教室の中へと入ってゆく。すると、いきなり大場に体を押さえつけられる。正一は、ハッとする。
 教室の中には、影子がぐずりながら、しゃがみ込んでおり、それを桐生たちが取り囲んでいる。法鬼が、正一同様に、爪田に押さえつけられており、興奮し て、わめき続けている。
「ちょうどいい。見物人が一人、増えたみたいだな」楽しげに桐生が言う。「さあ、影子、早く服を脱ぎな。最後の一枚まで、全部だ」
 影子、泣きながら、自分のセーラー服に手をやる。
「なに、グズグズしてんだよ。早く!」爪田が怒鳴る。
「バカ!間野さん!やめるんだ」法鬼も絶叫する。
 正一は、呆然と、その様子を眺めている。
 影子は、ついに裸になる。そして、泣きながら、局部を隠すように座り込む。
「へへ、影子は脱いだぜ。さあ、委員長、今度はあんたの番だぜ。かわいい恋人さんが、あんたが抱いてくれるのを待ってるぜ」と、桐生。
 いきり立つ法鬼。
「それとも、正一。あんたが抱いてやるかい。こんな女に対して、別に遠慮はいらないんだぜ」
 その時、脱いだ服で体のあちこちを覆いながら、影子が立ち上がる。
「あたしさえ我慢していれば、それでいいと思っていた。でも、もう許せない!」影子が叫ぶ。「マッピー!」
 皆は、ギョッとする。
 その時、窓ガラスをぶち破り、あの影子のガラス玉が教室の中へ飛び込んでくる。ガラス玉は、床の上に転がる。
 皆は呆然とする。
「ヘッ、なんだよ、これは」ガラス玉へ近づく桐生。
「マッピー!やっておしまい!」影子が叫ぶ。
 次の瞬間、桐生の目の前で、ガラス玉が粉々に砕ける。そして、中の液体が、きょとんと開けていた桐生の口の中へ飛び込んでゆく。
「へ?」呆然とする桐生。
 いきなり、彼女の頭がぐちゃぐちゃに吹っ飛ぶ!あの液体が四方へと飛び散り、その勢いに流し飛ばされたのである。
 桐生の首なし死体が床に伏す。
 皆は、あっけにとられる。
「うふ、ははは、はははは」影子が笑い出す。ぞっとするほど無邪気な笑い。
「あはははは」桐生の側近たちもまた笑い出す。こちらは、狂った笑いだ。
 その様子を、正一と法鬼は、呆然と眺めている。

 必死に訴えている法鬼のカット。
ナレーション「桐生の側近どもは皆狂い、残った法鬼は影子の殺人を必死に訴えたが、誰も事実とは信じてくれなかった」

 職員室。
 影子の問題に対する会議の最中。ひさおの姿もある。
「桐生さんの死は、どう考えても変死としか言いようがない。そう片付けるしかありませんね」
「でも、影子さんの件はどうします?彼女が犯人だと言うのは、まず間違いないですよ」
「しかし、証拠がない。だが、彼女をこのまま、放っとく訳にもいくまい」
「影子さんは、放校処置と言う事にしましょう。他に手はありませんな。校長、いかがです?」
 校長、重い顔つきのまま、うなずく。
「ひさお先生、あなたはどうします?」一人の教員が、ひさおの方へ訊ねる。
 ひさおは、ジッと窓から外の方を眺めている。
「私は、彼女のあとを追いかけますわ。あの子は、私がお腹を痛めて、産んだ子ですから」ひさおの口元に、ゾッとする笑み。

 朝。
 登校時の正一。一人、ぼんやりと土手の上を歩いている。
「正一くん、おはよ」後ろから、声がかかる。
 振り向くと、影子がいる。いつものように、無邪気で明るい。
 一瞬、ボッとその姿を見つめる正一。
「どうしたの?」と、影子。
「い、いや、なにも」と、正一。
 影子、クスリと笑う。そして、正一の先へと歩み出、彼の方へ微笑みかける。
 ラストのカットは、一ページ使って、影子の全く無邪気そうな全身図。